(写真=webサイトより)

「売り上げを減らす」働きやすさと利益を両立させる視点とは

利益至上主義ではない経営ノウハウから学べること

働き方改革で残業時間の削減が呼ばれるようになったものの、結局、仕事量は変わらないなどといったことはよくある話です。

『売上を減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』(中村朱美著、ライツ社)より、「働きやすさ」と「会社の利益」を、残業ゼロで両立させる新しい考え方を紹介します。

どれだけもうかっても「これ以上は売らない・働かない」

著者は2019年に日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(最優秀賞)を受賞し、多くのメディアに登場しています。もともとは、専門学校の職員でした。

2012年に、ありったけの貯金500万円を使って、夫とともに起業。たった10坪、14席のコンパクトな規模で、「1日100食限定」の国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」を開業しました。

最初は、京都の観光地から少し離れた住宅街に店を構えて、その後、さらにすき焼きと肉寿司の専門店をオープン。佰食屋は、連日行列ができる超人気店に成長し、年商は1億円を超え、従業員は30人にまで増えています。

注目すべきなのは、飲食店としてこれだけの成長を遂げているのにもかかわらず、佰食屋では「残業ゼロ」を実現していることです。営業時間はわずか3時間半。14時半には店じまいして、17時には従業員が帰り始めます。

つまり、どれだけ儲かったとしても、「これ以上は売らない」「これ以上は働かない」。予め決めた業務量を、時間内でしっかりとこなし、最大限の成果を挙げる。そして残りの時間(人生)を自分の好きなように使う、ということ。(5ページより引用)

これだけの急成長が見込めるのであれば、夜も営業してみようとか、食数を増やして利益をあげよう、などといった思考に変化していくものです。しかし、佰食屋の目標は、最初から現在に至るまでとてもシンプル。「本当においしいものを100食売り切って、早く帰ろう」だけなのです。

業績至上主義からの解放

一般的に、従業員が働きやすい会社であるということと、企業として経営を成り立たせることは相反するものと捉えられることのほうが多く、両立しにくいイメージがあります。

しかし著者は、会社の売り上げがいくら伸びても、従業員が忙しすぎて働くことがしんどくなってしまっては仕方がないと考えました。そこで、売り上げ増と他店舗展開を捨てて、今は「3店舗で1億円ちょっと売り上げる」くらいがちょうどいいという判断に至ったといいます。

利益の追求ではなく、「本当に働きたいと思える会社」を作る。そう願ったとしても、なかなか理想どおりにはいかない現状を抱える企業が多い昨今、佰食屋はどのように成し得たのでしょうか。

幸運なヒットのベースにある「商品力」

順風満帆に見える佰食屋ですが、最初は20食も売れない時期があったようです。1日20人も客が来ればいいほうで、10人、15人といった日が続く状態。

当初、ステーキ丼をいかにおいしく提供するかということには気を回していたものの、店のオペレーションにはあまり目が行き届いていなかったようです。

6つ折りナプキンを置き忘れたり、玄関の入り口に滑り止めマットを敷いていなかったり……。中略 あれがない、これもない。毎日のようにスーパーやホームセンター買い出しに行っていました。(51ページより引用)

飲食店素人であったという著者夫婦ですが、始めてから足りないものに気がつき、用意していく日々。開店資金の500万円はほとんど使ってしまい、食材もまとめて卸せるほど買えない状態が続きました。

そんなある日、佰食屋に突然多くの客が押し寄せてきたのだとか。ある個人ブログで紹介され、Yahoo!地域ニュース欄に掲載されたというのです。その後、地元の情報誌やテレビ番組でも取り上げられ、開店から3カ月で目標の「1日100食」を売り切ることができたのだといいます。

たった1件のブログがきっかけとなった幸運なヒット。しかし、一過性ではない継続的な売り上げにつながったのは、そもそもステーキ丼が持つ商品力にあることは言うまでもありません。

素材や工程にこだわり、作り上げたレシピが根底にあったということ。オペレーションや宣伝広告は次の話。まずは商品に力があるものを作り上げるということが、すべてのベースになっていることがよく分かります。

「早く帰れる」という幸せ

佰食屋の特徴である“100食”という制約が生まれたことで、5つのメリットが生まれたと著者は語っています。

1「早く帰れる」退勤時間は夕方17時台
2「フードロスほぼゼロ化」で経費削減
3「経営が簡単になる」カギは圧倒的な商品力
4「どんな人も即戦力になる」やる気にあふれている人なんていらない
5「売り上げ至上主義からの解放」よりやさしい働き方へ

従業員の立場から見たら、「早く帰れる」ということは特に気になるところです。

ただ佰食屋だって、正社員は、土日祝日だからといって給料が上がるわけではありません。でもみんな、こぞって働きたがる。それはつまり、「早く帰れることはお金と同じくらい魅力的なインセンティブだ、ということでしょう。 (85ページより引用)

ただでさえ、飲食業界は残業や長時間労働が常態化しがちです。。佰食屋に勤める従業員の中にも、かつてそういった環境で働いた経験を持つ人がいるといいます。だからこそ、佰食屋に入社してから早く帰れるようになって、人生が変わったのだとか。

佰食屋と他の飲食店との違いは、いうまでもなくその食数にあります。営業時間ではなく、売れた数を区切りにしているため、「1日100食売ること。そしてそのなかで来店したお客さまを最大限幸せにすること」という、たったひとつの目標に勤務中は集中していけるのでしょう。

どんな立場の人でも早く帰れることによって、心の余裕と時間が生まれます。働き方だけではなく、その後の時間をどう使うのかを自分で決められるということは、幸せなことであると言えるでしょう。

稼がなくてはいけないという重圧に気付く

本著には、これまで佰食屋がしてきた試みがいろいろとまとめられています。そして、最後にはこんな一文があります。

あなたを苦しめているのは、「こうしなければ」と思い込むあなた自身なのです。(259ページより引用)

誰かと比べてしまったり、昔から何となくそうと決めてしまっていたりする物事。まずは、知らず知らずのうちに、自分自身を縛っているものの正体に気付いていくことが大事なのかもしれません。

経営をしていれば、どうしても「たくさん稼がなくてはいけない」という重圧がのしかかってくるものです。しかし、少し視点を変えることで、しなくていいことの見極めができるのかもしれません。

タイトル:『売上を減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』
著者:中村朱美
発行:ライツ社
定価:1500円(税抜)

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