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「独身税」議論はなぜ繰り返される?女性が期待されてきた「生産性」の真実とは

結婚は誰のためのものなの?

「独身の人はより多く税金を負担すべき」という、独身税導入の提案が最近話題となりました。賛否両論が飛び交いましたが、筆者はこの問題の正体は、「子供を持たない独身者は社会にタダ乗りしている」、つまり「独身、ずるい」論だと考えます。

なぜ独身者はずるいことにされてしまうのか、そして本当に独身者は社会の上に楽して乗っかっているのか。下火になってもまた再燃するこれらの議論は、一体どこから生まれてくるのでしょうか。

形を変えては現れる「独身者負担論」

独身税 (写真=Creativa Images/Shutterstock.com)

「独身、ずるい」論は、独身税の形を取って現れるだけに限りません。ここ最近で話題になった独身批判の主張を追ってみましょう。

・「独身税」:かほく市ママ課の提案とその背景

「独身税」という言葉が注目を集めたのは2017年8月のこと。石川県かほく市の子育て中の市民による市政参画プロジェクト「かほく市ママ課」と財務省主計官との意見交換会の席上で、独身税に関する言及があり、そのことを地元紙が報じたことがきっかけです。

しかし、独身税という発想はもっと前にさかのぼります。日本では、2004年に自由民主党の子育て小委員会で柴山昌彦衆院議員が導入を提案しました。実際に、ブルガリアでは1968年から独身税を導入しています。少子高齢化対策として導入された政策でしたが、かえって出生率が下がるという皮肉な結果を招き、導入後21年で廃止となりました。

・加藤議員「独身女性は社会のお荷物」発言とその反響

この時はネットを中心に反発の声が広がり、独身税も具体化されませんでした。ところが、翌2018年5月、今度は同じく自由民主党の加藤寛治衆院議員が「女性は結婚して子供を産み育てなければ人さまの子供の税金で老人ホームに入ることになる」と発言。海外でも報道されるほどの社会問題となりました。

・杉田議員「LGBTの生産性」発言と独身女性は無関係ではいられない

さらに、2018年8月には、自由民主党の杉田水脈衆院議員が雑誌「新潮45」への寄稿文の中で「子供を作らない、つまり「生産性」がないLGBTのために税金を投入するのは果たして妥当なことなのか」という論を展開し、大問題となりました。

LGBTのみならず重度の障害を持つ人々にも関わる差別と攻撃だとして、激しい怒りと批判を呼び起こしましたが、これは独身女性も無関係な問題ではありません。「生む、生まない」が問題とされる時、独身女性も当事者としてその選択に直面せざるを得ないからです。

これらの発言を追いかけていると、独身者批判の本質が明らかになります。

つまり、こういうことです。

  1. 社会の生産に寄与するのは「子供を生むこと」であり、子供を生まない者は社会の生み出すものを享受するだけの存在である
  2. 生産に寄与しない者への税金支出は不公平である、税金を使うなら生産に貢献すべきである

女性が期待されてきた「生産性」①:出産と子育て

独身税 (写真=Rawpixel.com/Shutterstock.com)

子供を生むことが女性の生産性。もっともらしくも聞こえますが、女性は子供を生むために存在するのではなく、子供はただ生みさえすれば勝手に育って増えていく訳でもありません。「子供を生み、育てろ」と求められる時、女性はもっと大きなものを期待されています。

・日本の子育てにかかるお金

日本で子供を育てるのにかかるお金の実態を調査したのが、2010年に内閣府が行った「インターネットによる子育て費用に関する調査」です。全国の0歳から15歳の第1子を持つ親2万4562名を対象にアンケート調査を実施。第1子一人当たりの年間子育て費用平均額として、次のような結果が出ました。

  • 未就学児:104万3535円
  • 小学生:115万3541円
  • 中学生:155万5567円

この中で最も大きい割合を占めるものとして指摘されているのが、「教育費」です。

・教育の「私的収益率」と「社会的収益率」

「でも、教育にかかるお金は家庭の熱心さ次第でしょう?」という見方もあると思います。教育費は各家庭の自己責任、自己投資なのでしょうか?

教育を研究する方法に「経済アプローチ」という立場があります。「教育には貧困をなくしたり経済発展を促したりといった経済的効果がある」という見方から、教育政策を検討する立場です。そこで重要になる分析の指標が「私的収益率」と「社会的収益率」です。

簡単に言うと、私的収益率は「その教育によって個人がどんな得をしたか」、社会的収益率は「その教育によって政府財政がどんな得をしたか」ということです。この2つを比較することで、その国である教育を実施した時に、コスト負担と利益が個人と政府のどちらにどれだけ配分されているかが分かるのです。

・家庭がコストを負担し政府が利益を回収する日本

個人と政府のコストと利益の配分を分析したものが、経済開発協力機構(OECD)の『図表でみる教育』です。2017年版の日本についてのレポートを見てみると、OECD加盟国の中でも特殊な日本の教育事情が明らかになります。

大学以上の高等教育において、日本の公財政支出の割合は34%、OECD加盟国平均である70%の半分です。一方の家計負担の割合は51%で、こちらはOECD平均22%の倍以上に上ります。私的収益率と社会的収益率を比較してみると、私的収益率は男性が8%で女性は3%。ところが社会的収益率は男性が16%、女性はなんと21%です。

教育政策・教育経済学を研究する国際児童基金(ユニセフ)の畠山勝太氏は、特に女性におけるこの収益率の差を問題視し、政府は個人の努力にタダ乗りしている状況にある、と指摘しています。

特異なのは幼児教育も同じです。日本では幼児教育の在学率は高く、2015年時点で8割から9割の未就学児が保育園なり幼稚園なりに在籍しているのですが、公的財源の割合は46%とOECD加盟国およびパートナー諸国の中で最も低く、大部分を家計が負担しているのです。

つまり、日本では女性が子供を生み育てると、社会はかけたコスト以上に大きなリターンが返ってくるのです。

女性が期待されてきた「生産性」②:アンペイドワーク

独身税 (写真=Andrey_Popov/Shutterstock.com)

もう一つ、結婚した女性には隠れた大きな「生産性」があります。それは、「報酬を支払わなくていい労働」です。

・ペイドワークとアンペイドワーク

「労働」というと会社に雇われてお給料をもらう「仕事」を想像しがちですが、じつは2種類あります。報酬の発生する「有償労働(ペイドワーク)」といわゆる「タダ働き」の「無償労働(アンペイドワーク)」です。

アンペイドワークに含まれるものは主に、育児・介護・家事などの家事労働、農作業や自営業などの家族労働の領域で、人間の生命維持や再生産に関わる「ケア労働」の部分。ペイドワークとアンペイドワークはどちらも重要な労働ですが、性別による不均衡と不平等の問題があり、解決できないまま今日に至ります。

・女性が引き受けてきたケア労働

結婚すると、家庭責任の多くは女性が担いがちです。総務省の「平成28年社会生活基本調査」によると、6歳未満の子供を持つ夫婦において、夫の家事・育児関連時間は1時間23分なのに対し妻は7時間34分。大きな開きがあります。

家事労働の大半を担う女性は、外で働く際に大きな時間的ハンディキャップを負います。時間の融通が利きにくい働き手は、パートタイムや派遣など非正規雇用に切り替わりがちです。時短勤務で給与が下がった経験のある人もいるでしょう。

言うなれば、日本の正社員は「家庭でもっぱら家事を担う妻がいる男性に合わせた働き方」。つまり、日本企業の長時間拘束ワーキングスタイルは、その裏に家事労働を一手に引き受ける存在があって初めて成り立つのです。

・無償労働を奨励すると賃金も節約できる仕組み

「家庭内の労働は無償」が当然視されると、家庭外の仕事でもコストカットすることができます。家事に近いとみなされるケア労働分野、外食産業や介護、保育などが「誰でもできる仕事」「家庭の仕事の延長」とみなされ、待遇や賃金の低下が進むのです。

家事労働を一段低いものとみなして、家庭責任を負う働き手を労働市場から排除し、その労働を安く手に入れること。こういった不当な扱いを、和光大学教授の竹信三恵子氏は「家事労働ハラスメント」と名付け、警鐘を発しました。『家事労働ハラスメント-生きづらさの根にあるもの』(竹信三恵子、岩波書店、2013年)。

また、それらの分野ではたとえ資格を持った専門職でも低賃金化すること、それらの職は女性割合が高い上に同じ職内でも女性の賃金の方が低いことを、シカゴ大学教授の山口一男氏がデータで実証しました。『働き方の男女不平等-理論と実証分析』(山口一男、日本経済新聞出版社、2017年)

・ケア労働を家庭に任せると社会もコストを節約できる

1996年、経済企画庁(現内閣府)が「無償労働の貨幣評価について」というレポートを発表し、無償労働を金額に換算するとどのくらいになるか試算しました。それによると、1991年における無償労働の評価額は67兆円~99兆円、GDPの14.6%~21.6%の規模でした。

これは「家庭の主婦の仕事にも外で働くのと同じくらいの価値がありました!」と喜ぶところではありません。67兆円~99兆円規模の仕事を、日本社会はタダで享受した、ということです。

大きな課題がのしかかる保育や介護の分野においても、同様に家庭の無償労働に乗せ換えれば、社会は負担するコストを削減することが可能です。とはいえ、私たちはすでに待機児童の問題や介護離職の問題など、家庭に期待された無償労働のしわ寄せに直面しているのです。

女性を結婚させることは国にとって「おいしい投資」

独身税 (写真=asife/Shutterstock.com)

これらの現状を見ていくと、「独身、ずるい」論は結局のところ、「独身者が結婚してくれれば社会は丸もうけ」という都合のいい期待では?と考えずにはいられません。独身者、特に女性を結婚させることは、コストを抑えて大きなリターンが見込める「おいしい投資」なのです。

日本では少子化対策検討のため、2000年代の初め頃から結婚についてもさまざまな調査研究が行われるようになりました。そこでまとめられた報告書類がずっと指摘してきたのは、若い世代の経済状況や雇用環境を改善し、結婚しやすい状況を作る必要性です。子育て環境の改善も同じことでした。

ところが、日本の結婚支援はもっぱら個人の問題へと還元され、独身者を啓蒙し結婚を奨励する方向、独身者の危機感をあおり、結婚へ誘導する方向へと向かいました。

社会の仕組みや制度を変えること、経済や労働の構造を変えることは、「若者、がんばれ」と言うよりずっと難しいことですし、個人に頑張ってもらう方がコストはかかりません。しかし、仮にその「おいしい投資」がうまくいったとしても、現役世代を絞り切ったらその先はもうありません。将来にわたって日本があり続けるには、私たちはおいしい夢を見ていてはいけないのではないでしょうか。

「結婚」が負担なのは「ご神体が重すぎるお神輿」だから

独身税 (写真=Antonio Guillem/Shutterstock.com)

既婚者が「結婚した自分たちはこんなに負担が重くて大変なのに、独身者は気楽だ」と感じる時、それは無理からぬことのようにも感じます。結婚するとこれだけ有形無形のさまざまな負担を負うことになるからです。独身税は、その不公平感を上手に利用したアイディアなのだと思います。

日本の「結婚」って、みんなで重たいお神輿を担いでいるみたいだな、と筆者は感じます。私たちは一体何を担いでいるのでしょう。「担ぐ人数を増やせばみんな楽になる」ではなくて、「そもそも何で担がなきゃいけないの?」とか、「ご神体、重すぎじゃない?この正体は何?」という発想をしてみてもいいのではないでしょうか。

私たちはお神輿を担ぎ続けなくても、古い氏子会を解体して神様を下ろし、代わりに望む将来を抱きしめて、パートナーと2人で歩くこともできるはずだと思うのです。

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