(画像= nongamt/shutterstock.com)

世界が不安定になると「円が買われる」その理由とは?

為替が動くと、世の中どうなる?(2)

この記事は角川総一氏の著書『為替が動くと、世の中どうなる?』すばる舎の内容を抜粋したものになります。

・『為替が動くと、世の中どうなる?』シリーズ
(1)為替相場を読むうえで知っておきたい「円キャリー取引」とは?
(2)世界が不安定になると「円が買われる」その理由とは?

※以下、書籍より抜粋

世界経済が不安定になると円が買われる理由

●「日本」は本当に「大借金国」なのか?

「世界が不安定になると円が買われる」のは、「円キャリー取引とその巻き戻し」という仕組みによります。実際、「米経済成長率が鈍ってきたことで円が買われる」とか「クリミア情勢の緊迫化で円が買われる」といったニュースを目にした方も多いことでしょう。

しかし、釈然としない人も多いかもしれません。

「だって、日本は世界一財政赤字が多い国なんでしょ。借金が大きい、と言う人もいる。ギリシャよりはるかに悪いって言うわよね。それなのに、世界で不安心理が広がれば日本の円が安全な通貨として買われるっていうのはどうも腑に落ちない」

そう考えている方もいるでしょう。

そこで、世界が不安になればなぜ「安全資産として円が買われるのか」ということをわかりやすく説明します。

実は、「円キャリー取引」と「円キャリーの巻き戻し」以外にも、世界全体で不安心理が高まれば、円が買われ、不安が鎮まれば円が売られる理由があるのです。

世界で最も財政赤字を多く抱えている国はどこでしょう?

多くの方がご存じの通り、日本政府ですね。

でも、ちょっと考えてみてください。

日本経済は、政府だけで成り立っているのではありませんよね。政府の他に、企業と家計というものがあります。むしろ、経済活動の主体は民間部門です。

これらを全部ひっくるめて「日本」なのです。

●民間部門(企業と家計)も、日本経済の一部です!

では、民間部門と政府部門を合わせた日本全体としてみれば、いま赤字なのでしょうか?赤字とか黒字とは、借金が多いのか、それとも資産のほうが多いのかということです。

日本国が1つの家族だとして、政府=お父さん、家計=お母さん、企業=子どもとしましょう。

「政府」(お父さん)が貧乏で300万円の赤字でも、「家計」(お母さん)は500万円の貯蓄を持っているし、「企業」(子ども)も節約して100万円貯金をしている。そして、お父さんの赤字は、ほとんどお母さんと子どもから借り入れたもの。

つまり、家族全体で見ると300万円の黒字。──単純に言えば、これが日本経済です。

国全体として借金が多いか、資産のほうが多いのかを示すのが実は「対外純資産」なのです。

つまり「政府+民間全体」として海外に持っている資産から負債を引いたら、正味どれだけの資産を持っているか、を示すのがこの数字です。

実は日本の「対外純資産」は世界でダントツのトップなのです。

●各国の対外純資産を見てみよう

2010年から、ギリシャの財政危機をきっかけに欧州の財政不安が高まりました。このときも円高。2016年には新興国の経済への不安が高まっているところへ、6月には英国がEUから離脱することを国民投票で決めてしまった。

このときも円高が進みました。

逆に、主に米国経済が世界景気を牽引していた2007年までの数年間と、2014年~15年には円が売られて円安になっています。

円相場は「世界全体の不安心理を忠実に映し出す鏡のようなもの」なのです。

東日本大震災のときも、円は上がりました。

一般的には「日本で大災害」となると、円が売られると考える人が多いと思います。

しかし、実際にはそうなりませんでした。いざ国難となったときにでも、日本は海外に豊富に持っている資産を国内に戻せばいいと世界は見たのです。

そして実際にそうするだろう、そうなれば円高だな、と、世界中の為替市場の参加者は読んだのです。

大災害により経済が一時的に停滞することのデメリットより、以上のような資金の流れにより円が買われるというエネルギーのほうが大きかったのです。

グラフを見てみましょう。

米国の銀行がほとんど担保らしい担保を取らないで、積極的に住宅ローンを貸し出したのが2000年代前半。しかし、2008年にかけ不動産価格が急落した結果、起きたのがリーマンショックです。

米国の超大手銀行が倒産したのです。

このときも、円が買われて一気に円高になっていますね。

あるいは2010年から、ギリシャの財政危機をきっかけに欧州の財政不安が一気に高まり、円高になりました。

さらに2016年には、新興国の経済への不安が高まっているところへ、6月には英国がEUからの離脱を決めてしまった。このときも一気に円高が進んでいます。

●震災後に円高が進んだ理由は?

間違いなく返済してくれるだけの財産的な余力を持っている人になら、安心してお金を貸せます。

国=通貨レベルでも同じことです。

対外的に巨額の資産を持っている日本経済で使われている円で持っていれば、ある意味では一番安心なのです。いざというときには、日本は海外に持っている資産を売って、それを国内に引き戻せばいいのですから。

そのときには、円高になりますね。円を持っていて円高になるということは、平たく言えば「儲かる」ということなのです。

1995年の阪神・淡路大震災や2011年の東日本大震災で日本が甚大な被害を受けた直後に、一時的に円高が進んだ理由はこれです。

災害に伴う損害補償のために、損害保険会社が海外に保有する外貨建て資産を処分して、円に引き戻したのも理由のひとつです。

さらには多くの企業が、様々な生産設備の修復のために海外に保有している債券や株式を売却し、それを円に換えて国内に持ち込んだのです。

震災後なのに、円高になったワケがわかったでしょうか。

日本は、いざというときに手元に引き戻して使える資金・資産を、海外に大量に保有しています。

逆に対外資産はゼロ、むしろ負債ばかりの国だったら、大地震とともに通貨は売られて大幅に下落したはずです。

要するに日本は、国全体として見ればとてもお金持ちだということなのです。だから世界経済のコンディションが悪化したり、中東で政治的、地政学的なリスクが高まったりして不安心理が広がると、「安全通貨である円」が買われるというわけなのです。

つまり「世界が不安定になると円が買われる」。これが世界のマネーの底流になっていることはぜひ覚えておいてください。

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角川総一(かどかわ・そういち)
(株)金融データシステム(KDS)代表。昭和24年大阪生まれ。京都大学文学部を経て、公社債関連専門紙で8年の記者経験後、独立。その後、わが国初の投資信託のデータベースを構築するとともに、各種雑誌、新聞、テレビ、ラジオなどでの金融、マネー評論、講演のほか、企業、各種団体などでセミナーを行う。著書は「図解 資産運用を読む事典」(東洋経済新報社)「バランスシート思考のすすめ!」(PHP研究所)ほか多数。証券経済学会会員。

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