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するかもしれない。でもよく知らない「事実婚のABC」徹底解説

法律婚との違いやメリット・デメリットを知っておこう

「事実婚」という言葉を耳にする機会は増えてきたのではないでしょうか。

ひょっとしたら、あなたも一度くらいは「事実婚、ありかもしれないなあ……」と思いを巡らせたことがあるのでは。筆者にも現在お付き合いしている相手がいますが、将来的に事実婚を選ぶ可能性はあると思っています。

ですが、あらためて考えてみると、漠然とイメージしているだけで、事実婚について実際にはよく知らないのですよね。

そこで、事実婚ついていろいろと勉強してみましたので、分かったことを皆さんにシェアしたいと思います。

事実婚ってそもそも何?

事実婚, 法律婚, 違い (写真=nito/Shutterstock.com)

事実婚と法律婚、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。また、事実婚との違いが分かりにくいものに「同棲」「内縁」もあります。

まずは、法律婚、同棲、内縁と事実婚の違いを整理していきましょう。

・法律婚と事実婚の違い

まずは、ご自身も事実婚である行政書士、武石文子さんの著書『事実婚歴20年の〈結婚・離婚カウンセラー行政書士〉が語る「事実婚」のホントのことがわかる本』(以下『わかる本』、すばる舎)から、事実婚についての基礎知識を紹介します。

婚姻届けを役所に提出すると、戸籍上の夫婦、つまり「法律上の夫婦」とみなされることになります。「法律上」とは、民法と戸籍法の適用を受けるということ。これに対するのが、婚姻届を提出しない「事実婚」です。事実婚とは文字通り「事実上の結婚」を言い、具体的には、夫婦で戸籍が別、姓が別という状態です。

事実婚の場合、子供との関係や親族との関係が法律婚とは違ってきますが、民法や特別法が定めている、

  • 夫婦の同居・協力・扶助の義務
  • 帰属不明財産の共有推定(夫婦で作った財産は共有財産とみなされる)
  • 互いに貞操を守る義務
  • 財産分与と、不当な関係性破棄に対する慰謝料請求
  • 夫婦としての連帯責任
  • 遺族年金の受け取り

といった夫婦としての義務や権利は事実婚にも認められていて、実態として法律婚との違いはあまりありません。

・同棲、内縁との違い

「同棲」と事実婚は、同居して生活を共にするという点では同じです。では何が違うのかといえば、「結婚をしているという実態と意識」の有無だと武石さんは言っています。

一緒に住んでいても当事者同士が「結婚ではない」と捉えていれば「同棲」になるわけです。第三者には分かりにくい部分ですね。ですから、「結婚関係」の有無を証明するには、住民票に間柄を記載する、結婚の公正証書を作るなどの方法を取る必要があります。

一方「内縁」はというと、その意味するところや法的な扱いは「事実婚」と同じです。「婚姻届けによらない事実上の夫婦関係」を指す言葉として、法律上の表記は「内縁」とされます。「事実婚」という言葉は1980年代後半頃から当事者を中心に使われるようになったもののようです。しかし、二つの言葉が持つイメージは大きく違います。

「内縁」は、戦前の「家制度」の中で嫁として適格でないとされた女性や、いわゆる「妾」の立場にあり、正式な婚姻のかたちを取れなかった女性と男性の関係を表す言葉でした。このような事情から、戦後に「内縁」は「家制度」とともに問題視されることになり、法律婚主義を徹底することで家族の民主化を進めようという流れが主流となったようです。

「事実婚」という言葉が使われ出した頃、それは従来の「内縁」と違い、個人が主体的に行う選択としての前向きなイメージで注目を集めることとなりました。

しかし筆者が耳にした話では、事実婚当事者は「標準から外れた結婚」としてしばしば偏見の目にさらされる状況が今もあるそうです。「正式な婚姻ではない」という戦前からのネガティブイメージ、「正しい意味での法律婚ではない」という戦後のネガティブイメージ、それらのイメージが「内縁」さらにはそれと同じ実態を持つ「事実婚」に、いまだにまとわりついているのではないでしょうか。

結婚や夫婦のあり方、それを取り巻く社会の状況が大きく変わってきている現在、もう拭い去っていいイメージではないかと思います。

事実婚を選ぶことで得られるもの

事実婚, 法律婚, 違い (写真=LikClick/Shutterstock.com)

・姓の変更に煩わされない

日本の戸籍法は、「同一戸籍に入るものは氏(姓)を同じくする」と規定しています。結婚して同じ籍に入る際に第3の姓は選べないので、法律婚をした夫婦は必ずどちらかの姓を選ぶことになります。

姓の変更が及ぼす影響は大きく言って二つ。心理的な負担と実際の不利益です。

慣れ親しんだ姓を失うことでアイデンティティを喪失するようなつらさを味わう人もいますし、家制度がなくなったとはいえ、姓を変えることで「〇〇家の嫁」「〇〇家の婿」という意識が生まれてしまうことも少なからずあるようです。

また、旧姓の名義で登録していたパスポートや免許証、カードや登記類の変更などにも膨大な手間と費用がかかります。仕事上では、名前と紐づいていた業績がたどれなくなるなどの損失も、特に研究者や国家資格を持つ人たちの間では深刻だといいます。

事実婚は、現時点でそれらの問題をクリアする唯一の方法です。

・結婚、離婚に伴う法的な「面倒ごと」から解放される

日本の結婚は、特に女性にとって、戸籍の移動、姓の変更と結びついています。

例えば、ある女性が結婚・離婚・再婚を経験したとしましょう。スタンダードに姓の変更を伴う法律婚をしたとすると、この女性は戸籍を3回、そして、「婚氏続称制度」という特別な手続きを取らない限り姓も3回変えることになります。子供が一緒なら、子供も最大で3回、戸籍と姓を変えなくてはならないかもしれません。

手続きとしても面倒ですし、姓が変わるたびに否応なしにプライバシーが周囲に知れてしまうのも不愉快です。結婚と離婚の履歴は戸籍に残るので、それを嫌って相手が離婚に応じてくれない、離婚しても相手との関係性が残っているような違和感を持つなどの例もあります。

そういった面倒ごとを経験した女性は、再婚するときに事実婚を選ぶケースも多いようです。

・対等な関係を意識しやすい

現在の戸籍法では、結婚時に夫婦の新しい戸籍を作ることになっているため、相手の「家」に入るという意味での「入籍」はありません。〇〇家の嫁や婿になるわけではないということです。

それでも、姓の変更は伴うので、従来のイメージに引きずられて、姓を変えた人が相手の家に「入る」とような認識は今でも残っています。特に60代以上の親世代は、「どっちの家の人間」とか「内孫・外孫」のような言い方をすることが多くないでしょうか。

また、夫婦の戸籍を作る際は、姓を継続した人が戸籍の筆頭者になります。筆頭者は戸籍整理上の都合に過ぎないのですが、戦前でいう「戸主」のように、その家を代表する存在かつ何らかの権限を持っているようなイメージを、若い世代でも持っているように思います。

事実婚は姓も違えば戸籍も別なので、そのイメージからは比較的自由でいられます。前述の武石さんの本では、「事実婚だからイーブンな関係を築けたのであり、だから20年も続いたと思う」という、事実婚を経験した方の言葉が紹介されています。

・相手親族の扶養義務は法律婚にもないけれど……

法律婚で発生する親族関係では、民法で配偶者の3親等以内の血族まで、つまり配偶者の父母やきょうだい、甥姪、配偶者の連れ子などを「親族」と定めており、これを「姻族(いんぞく)」と呼びます。しかし、民法によって扶養義務を課されているのは、自分の直系の血族と兄弟姉妹だけなのです。

つまり、配偶者の親やきょうだいは、たとえ法律婚をしたとしても扶養義務はありません。それでもやはり、結婚して嫁や婿の立場になったら、その家の親の面倒を見るべきという規範は強く残っていますよね。

事実婚は、その規範からも比較的自由な位置にあるようです。先ほど紹介した「事実婚だからイーブンな関係を築けた」という方のケースでは、「夫の親からは、よく理解できないながらも嫁ではないと思われていたことが、実家を訪れた際の接し方にも現れていた」と紹介されていました。

事実婚を選ぶときに分かっておきたいこと

事実婚, 法律婚, 違い (写真=PIXTA)

法律婚と比較したときに、どんなデメリットやリスクがあるのか見ていきましょう。

・相手の病気や死に直面したときに表面化する「相続」や「税」の問題

法的にデメリットがはっきりと生じるのは、相手が死亡したり判断能力や意識がなくなったりしたとき、大きな変化が訪れるときです。相続では法律婚と事実婚で大きな違いがあります。

事実婚の夫婦はお互いが相手の法定相続人ではないので、何もせず一方が死亡した場合、相続を受けることができません。子供がいない夫婦の場合だと、相手の親やきょうだいがすべて相続することとなります。

それを避けるには、遺言書を書いて互いに遺贈できるようにしておく必要があります。ただし遺留分といって相続人のうち一定の人には必ず相続分が確保されているので、この場合だと遺贈を行ったとしても、相手の親が相続財産の1/3を取得することとなります。

また、互いに遺贈した場合でも、事実婚だと相続税の面で大きなデメリットがあります。法律婚の場合は配偶者に対して税額の軽減制度があり、1億6000万円または法定相続分相当額までは税金がかかりませんが、事実婚にはこれが適用されません。

課税される遺産は、あらかじめ基礎控除分を差し引いて計算されるのですが、遺産が基礎控除より大きくて課税されることとなったとき、相続人ではない事実婚配偶者には、遺贈された分に20%割り増しの相続税がかかってくるのです。

夫婦の一方が認知症などで判断能力が衰えたときにも、デメリットが浮上します。法律婚では、家庭裁判所に申し立てれば、本人に代わって財産を管理したり契約を結んだりする成年後見人を定めることができますが、事実婚の配偶者はこの申し立てができません。

これを避けるには、判断能力が落ちないうちに事前に後見人を決めておく「任意後見契約」を結んでおく必要があります。

・「子供にまつわるいろいろ」は自動的に処理されない

法律婚の場合、夫婦の間に子供が生まれると、出生届を出すだけで子供に関するさまざまな手続きは自動的に処理されます。事実婚の場合は、それらを一つ一つこなさなければなりません。

まず、子供は母親の子であり父親は不明という扱いになるので、父親と子供の間に法的な親子関係を発生させるには、認知届を出す必要があります。また、子供の親権者は母親のみとなり、子供は母親の戸籍に入り、母親の姓、母の非嫡出子という扱いになります。

・社会的な手続きの際に不便が生じる

そのほか、法律で定められているものでは、所得税の配偶者控除が受けられない、医療費控除の家族としての合算ができないなどの税金上のデメリットや、相手の戸籍を代理で取得できない、配偶者ビザが発行されないなどのデメリットがあります。

それ以外に、法律で定められていなくても個別の解釈で「配偶者と認められない」シーンがあるようなのです。

例えば、相手の勤務先が配偶者と認めず、結婚休暇や結婚祝い金が出ない、住宅手当の対象外とされるなどの不利益を被るケースもあります。生命保険の死亡受取人に指定できない、共有名義で住宅ローンを組めないことがほとんどといった実態もあるようです。

さらに、事実婚のデメリットとしてよく聞くのが、手術などの同意書に署名できないことです。これも実は法的根拠があるわけではありません。

医療行為への同意権は「一身尊属」といって、法律的には本人のみが持っていることになっています。法律婚の夫婦であろうと親や子であろうと、本来はできないのです。

医療の現場では、法的根拠があいまいなまま、家族の同意を本人の同意とみなして対応しているのが現状です。事実婚の配偶者を家族として扱うかどうかはその病院の判断により、退けられるケースが一般的のようです。

しかし、こうしたケースに対応するため、次のような方法をとっているカップルもいるようです。

任意後見契約を交わし「医療行為について本人が意思表示できない場合は、パートナーに治療方針を説明し、その理解と納得のもとに進めてもらう」という公正証書や「意思表明書」をあらかじめ作成し、自分の意思を明らかにしておくという対応です。

医療の同意代行について法的な整備を進めていこうという動きも出てきています。事実婚カップルの扱いも、この先変わっていくのかもしれません。

・周囲の理解を得られない

本人同士が納得していても、まだまだ周囲の人たちの理解が十分であるとは言えないのが事実婚。理解を求めておきたい相手としては職場やご近所などもありますが、何といっても最初に越えなければならないハードルは「親」でしょう。

前述の武石さんは、著書『わかる本』の中で「最初は反対していたとしても、事実婚とはどういうものかを説明し確固たる思いを伝え、気持ちが変わらないという姿勢を見せれば、親はいつかはわかってくれる可能性があります」「逆にいくら話しても平行線の場合は、一時的に距離を置くことも必要になると思います」とアドバイスしています。

筆者の見聞きした範囲内では、「次の世代に黙って任せてほしい」と、あえて強硬姿勢を取ったという方もいます。しかし一方で、自分の親からは「先方の親ごさんがかわいそう」と言われ、相手の親からは冷淡な態度を取られた、という女性も。

親との関係性はそれぞれに違うため悩ましい問題ですが、武石さんは「夫婦の考えが一致していることが非常に大事。親にも配偶者にも良い顔をしようとすると、かえって後でもめることになる」と指摘しています。

現状ではまだまだ、夫婦で覚悟を決めて親に対峙する必要があるのかもしれません。

法律上の「子供との関係」はどうなる?

事実婚, 法律婚, 違い (写真=VGstockstudio/Shutterstock.com)

事実婚では、子供との関係は法律上どうなっているのか、見てみましょう。

・法律上の取り扱いと認知

日本の法律では、子供の父親は母親の法律上の夫と定めています(民法722条)。事実婚カップルは法律上の夫婦として扱われないので、子供の父親は不明とされるため、父親と子供の間に法的な親子関係を発生させるには、認知届を出す必要があります。

認知は大きく分けて、「任意による認知」「審判や裁判による認知」「遺言による認知」に分かれますが、事実婚カップルに関係してくるのは、父親が自分の意思で行う任意認知です。

認知届を提出するタイミングはいつでもよく、妊娠中に胎児を認知することも可能です。提出先は、認知する父親または認知される子供の本籍地、住所地、所在地いずれかの市区町村役場です。ただし、胎児認知の場合は、母の本籍地の市区町村役場になります。また、胎児認知の場合は母親の承諾書が必要です。

認知をすると、父子間に法律上の親子関係が発生します。具体的には、

  • 父子間に扶養義務が発生する
  • 父親を親権者にすることができる
  • 父から子への相続権が発生する

この3点です。

・親権者と姓

認知をしても、そのままでは子供の親権者は母親で、子供は母親の戸籍に入っているため、姓も母親の姓です。もし親権者を父親にしたいのなら、父親と子供の養子縁組をします。また、子供に正式に父親姓を名乗らせたいのなら、「子の氏の変更許可の申立て」をする必要があります。

これらの手続きを取ると、子供は母親の籍から抜けて父親の籍に入ります。姓は父親のものに変わり、父の単独親権に移ります。

日本の戸籍法では、「同一戸籍には夫婦と未婚の子が入る」「戸籍を一つにするなら姓も一つにする」ことが決められているので、父と母がそれぞれ別の戸籍を持ち姓も異なる事実婚の場合、子供はそのどちらか一方に入るしかありません。また、共同親権は法的結婚をした夫婦の間にしか認められていません。

そして、認知と養子縁組をしても、戸籍上、子供は非嫡出子のままです。ただし、戸籍上で記載の区別はありますが、相続における嫡出子との差別は2013年の民法改正で解消され、不利益は現在ありません。

子供を嫡出子として戸籍に登録したい場合は、出生届を出すタイミングで法律婚をする、認知後に一度法律婚をするなどの方法があります。しかし、その後に父母がペーパー離婚して戸籍と姓を分けると、どちらか一方は、やはり子供と戸籍や姓が別になり、親権も単独親権になります。

事実婚を解消するときに分かっていたいこと

事実婚, 法律婚, 違い (写真=Andrey_Popov/Shutterstock.com)

事実婚の解消は、法的な「離婚」とどのような違いがあるのでしょうか。

・慰謝料

事実婚だからといって、簡単に解消できるわけではありません。協議が必要なポイント、法で保護されている部分は法律婚と一緒です。例えば、不貞行為など事実婚の解消となる原因を作った側は、法律婚と同じように慰謝料を払う必要があります。

・財産分与と婚姻費用

事実婚を解消するときの財産分与や婚姻費用も、法律婚の場合と同じように清算します。ただし、共有の不動産などを財産分与して一方が取得するケースにおいて、法律婚の場合は常識的な範囲内であれば贈与税が発生しません。

ところが事実婚の場合、税務署がそれを贈与と判断して高額な贈与税を課することがあります。これを避けるには、贈与ではなく財産分与であると裁判所に認めてもらわなくてはなりません。

・年金分割

厚生年金に加入していた夫婦が離婚する際、給与の少なかった一方が受給時に不利になることを防ぐため、結婚期間中に納めた年金を2人で分け合うことができます。年金算定のための標準報酬を按分して分割し、それに基づいてそれぞれの年金額が算定されるという制度です。これを年金分割と言い、事実婚解消の際にも適用されます。

年金分割は、双方が厚生年金に加入していた期間を分割する「合意分割」と、一方が扶養になっていた期間を分割する「3号分割」の2種類があり、法律婚の場合は両方おこなうことができます。

しかし、事実婚の場合は3号分割しか行うことができません。そのため、事実婚夫婦で両方が厚生年金に加入していた場合は、給与の低かった一方が受給年金の金額的には不利になります。

・養育費

親は子供に対して扶養義務を負っているので、未成年の子供に対しては養育費を負担する義務があります。この義務が親権者であるか否かにかかわらず発生することは、法律婚だろうと事実婚だろうと同じです。

ただし、このとき認知の有無が重要になります。父親が子供を認知していなければ、法的な親子関係はないので扶養義務は発生しません。つまり、養育費を支払わなくてもいいことになってしまうのです。

事実婚を選んだ先輩たちの声は?

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実際の経験者の声には、参考になるポイントがいろいろありました。紹介していきましょう。

・漫画家・水谷さるころさんの場合

エッセイ漫画『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)の著者、水谷さるころさんは、一度の法律婚と離婚をへて、現在のパートナーとは事実婚をしている方です。

水谷さんは一度目の結婚で、独身時代には意識していなかった「伝統的な日本の結婚観」が、自分の中にも社会の中にも根強く残っていることに気づきました。そしてフリーランスとして仕事を継続するうえで、姓を変えたことによるたくさんの不都合にも直面したといいます。

そんな経験から事実婚を選んだ水谷さんは、著書の中で「法律婚が『おまかせ安心パック』だとしたら、事実婚は『カスタマイズプラン』みたいな感じ」と整理しています。「おまかせ安心パック」である法律婚には、たくさんの要素がひとまとめにもれなくついてきます。ですが、それらの要素がすべて必要かというと、よく考えてみたらそうでもないわけです。

フリーランスという立場の水谷さんには、法律婚に含まれているものすべてを引き受けることで生じてしまう不利益よりも、事実婚で取捨選択するほうが、ご自身のライフスタイルにぴったりきたのだろうと思います。

・事実婚歴約30年の男性の場合

筆者がお話を伺った経験者の中に、事実婚歴約30年の男性がいます。彼は、結婚によって夫婦のうち一方が強制的に姓を変えなければならない日本の婚姻制度や戸籍制度に、そもそも疑問を持っていたそうです。

仕事が研究職なので、業績と紐づいている名前との一貫性、トレーサビリティ(追跡できるか)は非常に大切です。そして自分に受け入れられないことを相手に強いることもあり得ない。だったら別れるしか……?いや、そんな選択肢もあり得ない、と制度に挑戦する気持ちも込めて、事実婚を選んだとのことでした。

また彼は、姓や家系図などでつながる家族観にそもそも重きを置いていないと言います。親子関係は科学的にもっと確かに証明できるのに、不確かな姓や家系にこだわる意味がないという考え方です。

事実婚30年の間で特に困ることはなかったと振り返りますが、人生の終盤が近づきつつある今、相続や医療の同意の問題など、若く健康で経済的な問題もなかった頃には感じずに済んだ不都合を意識し始めているそうです。そのような思いから、選択的夫婦別姓法制化に向けて、積極的に賛成の声を挙げています。

・事実婚カップルの子供たちはどう感じている?

耳にしがちなのが、「事実婚だと子供がかわいそう」という声。しかし、『わかる本』著者の武石さんが、ご自身のお子さんに親の事実婚についてどう思うかをインタビューしたところ、「特に意識したことも無かった」「(困ったことも)別にない」という答えだったとのこと。

先ほど紹介した事実婚歴30年の男性にもお子さんが1人いますが、「〇〇ちゃんのお父さん」で済む子供の世界では、親の姓など気にしていないと言います。両親の姓が違う理由も説明しているし、その状態が当たり前なのだから、子供としてもそれに疑問の持ちようがない、というのが実情のようです。

筆者が目にする範囲でも、「子供がかわいそうだ」という意見は、当事者ではない人の「周りと違うと差別されるに違いない」という想像に由来するものが多いように感じます。当の子供からの「嫌な思いをした」という心情吐露は、今のところ見かけていません。

この「差別されるのでは……」という危惧、果たして、事実婚か否かを選択する際に考慮すべきことなのでしょうか。本当に危惧すべきなのは、「法律婚でなければ差別されて当然」というメンタリティではないかと筆者は思います。

もし「子供がかわいそう」という気持ちが湧いたなら、「一体何をかわいそうだと感じるのか」を自分に問い直してみてもいいのではないでしょうか。

「選択的夫婦別姓」をどう考えるか

事実婚, 法律婚, 違い (写真=Kenishirotie/Shutterstock.com)

姓を変えるのは夫と妻どちらでもよいことになっていますが、厚生労働省による2016年度の「婚姻に関する統計」によると、姓を変えたのは96%が妻のほうでした。親や結婚相手の男性までもが、それを当然と思っている風潮もあります。

法律婚と事実婚は実態にそれほど大きな違いはないといっても、これまで見てきたように、事実婚を選んだ場合、法律婚の場合には問題にならなかったいくつかの不利益が生じます。姓さえ変えずに済むなら法律婚を選びたかった人たちにとって、不利益をすべて引き受けなければならない状況は、あまりに理不尽です。

1979年に「女子差別撤廃条約」が国連で採択されて以来、1990年代までにヨーロッパをはじめ多くの国が夫婦別姓を導入しました。日本でも、選択的夫婦別姓の議論は約30年前からすでに始まっており、1996年には法制審議会で制度導入を含む民法改正の要綱の答申が出ています。

しかし、その後2度にわたり改正法案が準備されるも、国会提出には至らず、2011年に提訴された夫婦同姓の根拠である民法750条を問う裁判でも、合憲という最高裁判決が出されました。ただし、この判決については、裁判官からの意見としても出されたように、むしろ国民の民主的な議論の場にステージを移す契機と見るべきでしょう。

2018年4月、ソフトウェア開発会社「サイボウズ」の社長、青野慶久氏らが起こした裁判を皮切りに、夫婦別姓に関する審判申立や国家賠償訴訟が全国で相次いでいます。国連の女性差別撤廃委員会からもこれまでに3度、民法改正の勧告がなされました。

「夫婦が同姓で何が問題あるのか」
「不便なら事実婚をすればいい」

私たちはもはや、そういった態度ではいられないのではないでしょうか。

事実婚を選択肢に入れることは結婚を因数分解すること

事実婚, 法律婚, 違い (写真=Pertusinas/Shutterstock.com)

事実婚についてあらためて学んでみて、筆者が最初に感じたのは「別に私、事実婚でもいいな」ということでした。法律婚と事実婚が実際にはそれほど大きな違いがないということが分かりましたし、「おまかせ安心パック」でなくても、筆者の場合は問題なさそうだったからです。

だからといって、「おまかせ安心パック」で不利益も飲み込むか、「カスタマイズプラン」で妥協するか、結婚がその二者択一である必要はないのでは?と思います。

ジャーナリストの白河桃子さんは、著書『「逃げ恥」に見る結婚の経済学』(著・白河桃子、是枝俊吾、毎日新聞出版)で、昭和の時代の結婚を「『愛』『セックス』『子ども』『介護』などが、『幸せ』という甘いコーティングにくるまれてまるっとセットでついてきたバリューセットのようなもの」と表現しています。

そして、これらの要素を「因数分解する」ことで、行き詰まりを見せている現代の「結婚」を打開し、未来の可能性を探ることを訴えています。

法律婚の「安心パック」「バリューセット」が一番確実だった時代はあったかもしれません。ですがこの現代、制度もカルチャーも含めてすべての要素を「これが正しい結婚!」と引き受けなければ結婚できないのだとしたら、それはもう実情に合っていないのでは?と思います。

結婚をさまざまな意味で“因数分解”すべきときが来ているのではないでしょうか。事実婚を選ぶことも、その一つなのかもしれません。

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