(写真=Dudarev Mikhail/Shutterstock.com)

カンヌ最高賞・是枝監督作品『海よりもまだ深く』ーーあなたは人生に満足してますか?

幸せってのはね……何かを諦めないと手にできないもんなのよ

『万引き家族』で、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドール賞を受賞した是枝裕和監督。今回は同監督の映画『海よりもまだ深く』をご紹介しましょう。

叶わぬ夢ばかりを追いかけるちょっぴり情けない大人、良多が主人公。情けない役柄ではあるものの、おかしくて、切なくて、チャーミングな魅力に溢れたキャラクターを阿部寛さんが演じています。

いつまでも夢を追い続ける良多

良多は15年前に文学賞を獲得したものの、その後は特に目立った作品を世に送り出すこともなく、小説家という肩書きに執着しています。十分な稼ぎがあるわけでもない良多に愛想を尽かした妻は息子を連れて家を出てしまい、家庭は崩壊。良多は自分の不甲斐なさには気づいてはいるものの、何をするわけでもなく、執着することばかり。壊れた家庭にも執着しているのです。さらには、少年時代の思い出にまで執着する始末。

人生の折り返し地点を過ぎても、過去の栄光が永遠に続かないこと。人生のさまざまな出来事には“期限切れ”があること。愛情がなくなった相手をもう一度振り向かせることは難しいこと。これらを認めることなく、夢を追い続けているのです。

そんな良多を、穏やかな眼差しで見つめ、優しさ、厳しさ、温かさを絶妙なさじ加減で与えてくれるのが、樹木希林さん演じる母・淑子です。

人生を少しだけ楽に生きる方法を知っている母・淑子

『海よりもまだ深く』とは、テレサ・テンの『別れの予感』に登場する歌詞です。この曲が流れる場面で、「海より深く人を好きになったことなんてないから、こうして生きていける」と、淑子は言います。

この曲は、自分から去っていく男をどうにか繋ぎとめようと溺愛する女の情念が歌われているのです。人生は思い通りにはならないものだけど、執着を捨てることで、人生を少し楽に生きられるようになると、淑子は言っています。

お金に困っても、貸してとも言えず、こっそりお財布からお金をくすねてしまう。まさに、執着にがんじがらめになって身動きがとれず、ダメ男になるべくしてなってしまっている息子に対して、ちょっと執着を捨てることをほのめかしています。

諦めることは悪いことじゃない

ダメな息子に「いい加減にしなさい!」と言うことは簡単でしょう。しかし、淑子はじわりと心に染み込む言葉を選ぶのです。

淑子の口から出る言葉はどれを取っても名言と言えるくらい、心に響きます。その中でも一押しなのが、

「幸せってのはね…、何かを諦めないと手にできないもんなのよ」

幸せを手にするためには何かを諦めることが大切、とは言っていません。

この言葉は、決して諦めることをすすめているのではなく、諦めることも時には大切ということをほのめかしているのです。諦めることは悪いことではない、何かを諦めることで満足が手に入ることもあると言っているのです。執着しすぎる良多が、執着を減らす、なくすことで、手に入れることもあると諭しているのです。

キャストとキャラクターを想定したセリフ作り

本作が、心に残るセリフが多い理由のひとつに、脚本の段階からキャストとキャラクターを想定していたことが挙げられます。

まるでキャスト本人の言葉であるかのように自然に思えるセリフは、す〜っと耳に入り、心に染み込んできます。どこにでもある日常の一コマを切り取ったようなシーンで、ポツリと呟くだけのセリフなのに、ずっしりと心に響くものばかり。演技なのに演技と思えない自然な動きにも注目です。

淑子が一人暮らしをする団地で、ひょんなことから、良多と元妻、11歳のひとり息子は一晩を共にすることになります。台風が過ぎ去るのを待ちながら、現実を前にもがき苦しむ良多と、さりげなく助言する淑子。台風が過ぎ去った後に、良多の心にも台風一過のようなすっきりとした青空が広がることを期待せずにはいられません。

納得のいく人生を送っていますか?

仕事、恋愛、結婚、人間関係。アラサー世代のDAILY ANDS読者のみなさんには、頑張っているけれど、なんだかうまくいかない、納得のいく人生を送っていない、夢に描いたような人間になっていない、など人生を見つめ直すタイミングがしばしばあると思います。

どうして夢を追い続けるのか、なぜ今の人生に満足していないのか、と考えていると、良多のように、「こんなはずじゃなかった……自分の人生」と嘆いてしまうかもしれません。

そんなとき、この作品を観て、淑子からアドバイスをもらうというのもおすすめです。優しいだけじゃない、厳しくもあり、程よい温かみもある、淑子のセリフはまさに母親との日常会話のようにリアルで自然。ときに格言のように心に突き刺さり、胸に響くのです。

「諦めることは、悪いことじゃない」と素直に受け入れられるような、淑子のセリフ。ぜひ、樹木希林の説得力ある名演技とともに、チェックしてみてください。

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