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デメリットもある?「扶養の範囲内」で働くときに抑えておくポイントとは
よりよい働き方を選択しよう
就労時間を検討するときに、「今年も扶養の範囲で働こうかな、それとももう少し時間を増やして扶養から外れようかな」と悩んだことがある主婦の方も多いかと思います。
扶養の範囲内で働くメリットとデメリットを知って、今後の働き方を考えるヒントを見つけましょう。
「扶養に入る」とはどういうこと?
そもそも「扶養に入る」ってどういうことなんでしょう。この記事では、わかりやすくするために、夫が会社員、妻がパートをしているという夫婦を例にお話しますね。
一口に「扶養に入る」といっても、税金面における「扶養」と、社会保険面における「扶養」の2種類が存在します。
とても複雑ですので、項目ごとに順を追って見ていきましょう。
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税金面における「扶養」とは
1.配偶者控除の適用を受けること
妻が夫の「扶養に入る」と、夫が払う所得税・住民税を計算する段階で「配偶者控除」が適用されて、税金が安くなります。
「扶養に入る」条件は、パートさんなど給与をもらっている場合は「その年(1月1日~12月31日)の妻の給与収入が103万円以内」。また、教室を開くなどで事業所得を得ている場合は「その年(1月1日~12月31日)の妻の事業所得が38万円以内」が条件となります。
この記事では給与所得のあるパート主婦を例としてお伝えします。
まずは、なぜ給与収入を103万円以内にすることが夫に「配偶者控除」を適用させる条件になるのか、計算根拠を知っておきましょう。
「配偶者控除」の適用要件として、妻の所得が38万円以内というものがありますが、妻の給与所得は「給与収入-給与所得控除額」で算出します。
この給与所得控除額というのは「経費」の意味合いとして引いてもらえるもので、年収に応じて金額が決まります。
年収103万円の場合、給与所得控除額は65万円なので、
103万円-65万円=38万円
となり、給与しか所得がない妻の場合、年収103万円が「配偶者控除」の適用させるための上限額になるのです。
さらには2018年(平成30年)分からは「夫のその年の合計所得が1000万円以下」という条件も加わります。
夫の所得によって控除額にも差が生じますので、これまで扶養に入って配偶者控除の適用を受けていた人も、控除額が減ったりゼロになったりする可能性がありますのでご注意を。
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2.配偶者特別控除の適用を受けること
妻の年収が103万円を超えた場合でも、いきなり控除を受けられなくなるわけではありません。
年収141万円(所得76万円)までなら「配偶者特別控除」と名称は変わりますが、引き続き控除を受けられます。
さらに2018年分からは対象者が広がり、年収201万円(所得123万円)まで受けられるようになります。こちらも夫の合計所得によって控除額が異なります。
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社会保険面における「扶養」とは
同じ扶養でも、社会保険面における「扶養」は、夫が会社員や公務員の場合においてのみ関係します。
今の日本の年金制度では、会社員(公務員)の妻のうち、「自分に社会保険の加入義務がなく」かつ「年収130万円まで」の人は「第3号被保険者」となり、年金保険料や健康保険料がかからずに国民年金に加入したり、健康保険サービスを受けることができます。
社会保険の加入義務が生じる可能性がある妻というのは、主に大企業に勤めているパート主婦など。
具体的には次の5つの要件すべてに該当したら加入義務があると考えてよいでしょう。
- 従業員501人以上の会社に勤めている
- 労働時間が週20時間以上
- 1カ月の賃金が8.8万円(年収106万円)以上
- 勤務期間が1年以上
- 学生ではない
これらの要件にあてはまらない会社員(公務員)の妻の場合は、年収130万円まで「夫の社会保険面での扶養に入る」ことができるわけです。
必ず扶養に入るべき?
さて、「扶養」の仕組みはお分かりいただけたかと思いますが、扶養に必ず入らないといけないのかを考えてみましょう。
もちろん、必ず入らないといけないわけではありません。特に夫の合計所得が1000万円以上の妻の場合は、2018年分から配偶者控除が適用されなくなりますので、年収103万円までに抑えるメリットは得られなくなります。税制面での扶養を外れて収入を増やしていくきっかけとなりそうですね。
ただし、ひとつ注意しなければいけません。それは夫の会社から独自に支給される「配偶者手当」がある人の場合。妻の年収が103万円までという条件で支給している会社の場合は、「配偶者手当」がなくなってしまって良いかという視点も含めて働き方を考えましょう。
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扶養に入るメリットは?
年収の要件などを満たして扶養に入ると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
主に次の3つのメリットが挙げられます。
- 「配偶者控除」や「配偶者特別控除」が適用されれば夫の税金が減る
- 自分の年金保険料を払わずに国民年金に加入できる
- 自分の健康保険料を払わずに健康保険サービスを受けられる
また、もし夫の会社に「配偶者手当」があるのであれば、手当がもらえることもメリットとなります。
扶養に入るデメリットは?
それでは逆に、扶養に入るデメリットにはどのようなものがあるでしょう。
次の2つが挙げられます。
・自分が将来もらう年金が少ない
扶養に入っている会社員の妻である第3号被保険者は、年金の基礎である「国民年金」に加入しています。
一方、社会保険に加入し自分で保険料を払うようになると第2号被保険者として「厚生年金」に加入でき、国民年金に加えて厚生年金も受け取ることができるように。
扶養に入れるように収入を抑えていると、「将来もらえる年金が少なくなる」というデメリットが生じます。
・希望の働き方になかなか戻れなくなる可能性がある
子どもが小さいときに一時的に扶養に入るつもりで会社を辞めたけれど、その後、子どもが成長しても、そのままなんとなく扶養から外れることを避けている人もいるでしょう。
けれども、ブランクが空けば空くほど、会社員の自分に戻りにくくなることも。「こんなふうに働きたい」という希望のキャリアプランがある場合は、扶養に入ることだけに縛られず、生き方・働き方を検討するのがよいのではないでしょうか。
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年収103万円までのメリットは?
年収103万円までであれば、夫の税金が安くなる「配偶者控除」を受けられるうえに、妻自身も所得税を払わなくて済みます。また、夫の会社に「配偶者手当」がある場合は、毎月手当をもらえるのも大きなメリットでしょう。
ただし、年収103万円を超えて「配偶者控除」が受けられなくなっても、夫の合計所得が1000万円以内かつ妻の年収150万円までは、「配偶者控除」と同じ控除額で「配偶者特別控除」を受けられます。
夫の所得要件を満たしていても「配偶者手当」がないのであれば、「年収103万円」にこだわらなくてよいと言えますね。
ちなみに妻の年収が100万円(※)を超える場合は、妻自身に住民税がかかります。
(※)お住まいの自治体によっては金額が異なることもあります
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年収130万円までのメリットは?
妻自身が社会保険に加入する義務が生じる場合を除き、年収130万円までであれば、社会保険料を払わなくて済むというメリットがあります。
社会保険に加入した場合、将来の年金が増えたり、健康保険から傷病手当金や出産手当金などの保障が受けられるなどメリットもありますが、130万円を少し超えた程度の収入だと、超えた分より保険料が高くかかることもあり、手取りが大きく目減りしてしまう恐れも。
例えば年収140万円の場合、厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料として年額約21万円超かかります。他に差し引かれる雇用保険料や所得税と合わせると、手取りは約115万円にまでなってしまいます。
※1:協会けんぽ・東京都の場合/現行介護保険料は40歳以上のみ
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どのくらい年収があればいいの?
それでは一体どのくらいの年収があるとよいのでしょう。
考えるべきポイントは次の3つです。
1.今、どのような生活スタイルが理想か
例えば、子どもが小学校に上がるまではできるだけそばにいたいと思っているなど、働ける時間を増やしにくい事情がある場合は、働ける時間数の中でもっとも手取りが高くなる年収を考えるとよいですね。
一般的には、夫の会社に「配偶者手当」がある場合は、その限度額(多くが年収103万円)が目安になります。手当がない場合は、配偶者(特別)控除が満額受けられ、かつ、社会保険の加入義務がない「年収106万円」もしくは「年収130万円」が目安となるでしょう。
2.手取り収入が減ることに抵抗があるか
前述のように、社会保険料が発生する「年収130万円」(加入義務のある要件に当てはまる場合は年収106万円)を少しだけ超えるような働き方の場合、手取り収入はそれまでよりガクンと減ってしまいます。
それまでより収入が減ってしまうことに抵抗がある場合は、
- 社会保険料が発生する年収までいかないように調整する
- 働く時間を増やして、社会保険料分をペイできるまで年収を上げる
のどちらかしかありません。
一般的に、年収160万円を超えてくると手取りが130万円以上となり、元の水準に戻ります。しかも、もし年収160万円で20年間働いた場合、将来の厚生年金額は、現行水準で年額18.4万円にも。
終身もらえる公的年金が毎月1.5万円以上も上乗せできるのはうれしいですね。
3.これからどのような働き方を希望しているか
子育て中など、どうしても時間に制約がかかる時期はあるでしょう。しかし人生100年時代、まだまだ働ける期間はたくさん残っているのではないでしょうか。
これから自分はどのような働き方をしていきたいのかな? という視点も、今の手取り収入と同様、いや、もしかしたらそれ以上に大切なものです。
手取りは少し減ってしまうけれど、扶養から思い切って外れ、よりたくさんの経験を積んでキャリアアップを図る勇気を持つ、なんていうのも一つの選択肢になるでしょう。
ライフプランによってメリット・デメリットは異なる
扶養に入ることをメリットに感じるかデメリットに感じるかは、人によって全く異なります。自分のこれからの生き方をイメージして、今の自分にしっくりくる働き方を選択していけるとよいですね。
執筆者:みらい女性倶楽部 鈴木さや子
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