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パート主婦が扶養から抜けるベストタイミングはいつ?
103万円の壁が150万円に。働き損にならない働き方
パートやアルバイトは、扶養内で働きやすい働き方ですよね。でも、収入が増えてくるともっと働けるように扶養から抜けることを考え始める人もいるのではないでしょうか。
扶養を抜けるタイミングはいつがベストなのか、ご存じですか?
子や親の扶養もありますが、今回は妻(配偶者)が会社勤めである夫(納税者)の扶養から抜けるケースについてお話しします。
扶養から抜けるタイミング
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扶養から抜ける手続きは自動的には行われません。では、収入が増えて扶養の範囲を超えそうな場合、いつの時点で手続きをしたらよいのでしょうか。
「税金(所得税、住民税)」「社会保険(健康保険、厚生年金)」「勤務先の扶養手当」の3つの扶養それぞれ、タイミングが異なります。
・税金(所得税・住民税)
所得税法では、扶養になるかどうかは、その年の12月31日の状況で1年間の所得金額が確定してから判定を行うとなっています。
このため、扶養から外れるタイミングは、年末となります。 ただ、詳しくは手続きのところで後述しますが、年の途中でも、扶養から外れる見込みになった時点で、扶養者(夫)の勤務先に伝えて扶養家族の人数を変更しておいたほうがいいでしょう。
・社会保険
社会保険の場合は、年の途中であっても、年間の収入見込み額が扶養の範囲を超えることが分かった日から扶養から外れます。届出期間は、収入が増えた日から5日以内(土日祝日の場合は翌日)です。すぐに夫の会社の人事担当者に伝えて手続きを始めましょう。
・勤務先の扶養手当
勤務先の扶養手当を受け取っている場合、年の途中であっても扶養から外れる会社が多いと思います。妻の収入が増えるなど、就業規則で定められている扶養の条件から外れそうになることが分かった時点で、会社の人事担当者に速やかに届け出ましょう。
扶養から抜ける条件は?
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扶養を外れるかどうかの最終的な判断材料は、夫婦の手取りを合わせた世帯収入となります。
では実際に、税金や社会保険を妻(配偶者)自身で負担しても世帯収入が増えるターニングポイントはいつなのか。年収103万円の妻が働いたケースを例に挙げて、2018年分から適用の配偶者控除で見てみましょう。
▽事例
- 妻の年間給与収入=103万円
- 夫の年間給与収入=1120万円(所得900万円)以下
- 夫妻ともに勤務先は社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)あり
- 東京在住、子どもなし
- 会社の家族手当の支給基準=年収103万円以下
▽妻の年収が増えた場合の世帯収入アップ額
【妻の年収(増加分)/新たな負担→世帯収入アップ額】
125万円(+22万円)/4万500円 →17万9500円
140万円(+37万円)/26万7000円→10万3000円
155万円(+52万円)/32万4000円→19万6000円
これを見ると、妻が年収125万円まで働いた時よりも、年収140万円まで働いたときの方が世帯収入のアップ額が7万5000円以上低いという結果に!
これは、新たに26万7000円の負担が発生しているためです。詳しく見ていくと、次の通りとなります。
【妻の年収125万円での新たな負担】 ・夫の配偶者特別控除(38万円)=変わらない ・夫の社会保険料=変わらない ・家族手当の減額=1万7000円×12カ月=20万4000円 ・妻の所得税=1万1000円 ・妻の住民税=2万9500円 ・妻の社会保険料=なし(扶養内)
【妻の年収140万円での新たな負担】 ・夫の配偶者特別控除(38万円)=変わらない ・夫の社会保険料=変わらない ・家族手当の減額=1万7000円×12カ月=20万4000円 ・妻の所得税=1万8500円 ・妻の住民税=4万4500円 ・妻の社会保険料=1万7000円×12カ月=20万4000円
【妻の年収155万円での新たな負担】 ・夫の配偶者特別控除(36万円)=2万円 ・夫の社会保険料=変わらない ・家族手当の減額=1万7000円×12カ月=20万4000円 ・妻の所得税=2万8500円 ・妻の住民税=5万9500円 ・妻の社会保険料=1万8000円×12カ月=21万6000円
たくさん働いたのに世帯の手取り収入が減ってしまうという逆転現象は、妻自身の社会保険料が発生する130万円から150万円程度まで続きます。働き損にならないための年収目安は155万円程度ということになりますが、実際に世帯の手取り収入アップが感じられるようになるのは160万円を超えてからでしょう。
ただし、これは夫の会社に家族手当の福利厚生がない場合。妻の年収103万円以下を条件に家族手当が支給されているとしたら、それまで収入に入れていた年間20万円前後がなくなるわけですから、影響はより大きくなります。
扶養から抜けるときに必要な手続きは?
1. 所得税・住民税
所得税法上での扶養対象となるかどうかは、年間所得額が確定してから、その年の12月31日現在の状況で判定されます。妻(配偶者)が、会社員である夫(納税者)の扶養から外れた場合の手続きは、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記載されている該当扶養家族の氏名を年末調整の際に消すだけです。
一つ注意したいのは、年末調整のタイミングで扶養を外すと、配偶者控除の適用がなくなった分、所得税の追加徴収が発生する可能性があることです。それを避けるには、年の途中であっても、扶養から外れる見込みが立った時点で勤務先に扶養者の人数変更を申請しておきましょう。申請した翌月分の給与から調整後の所得税が差し引かれます。
2. 社会保険(健康保険・厚生年金)
社会保険の扶養対象の基準は、今後1年間の見込み給与収入(現在の月収×12カ月)が130万円を超えるかどうかです。
月収が10万8333円を継続して超えることが予想されるのであれば、年の途中であっても社会保険の扶養を外す手続きが必要になります。変更申請の提出期限は、認定基準額を超えた日から5日以内と短いのでご注意ください。実際に扶養が外れるのは、基準額超過日の翌月1日です。
手続きとしては、会社の担当部署に連絡し、必要事項を記載した申請書類を提出します。扶養から外れた人が自分で勤務先の社会保険加入する場合は、外れた日から5日以内に手続きする必要があります。国民健康保険と国民年金に加入する場合は、14日以内に住んでいる自治体の役所で手続きをおこないましょう。
3. 会社の家族手当
扶養者の勤務先が規定する家族手当などの支給条件から外れる場合には、できるだけ早く担当部署に連絡してください。
扶養から抜ける手続きをしないとどうなるの?
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これらの手続きをしないまま年末調整を迎えてしまったら、どうなるのでしょうか。
・所得税
年末調整が正しくおこなわれないため、確定申告での修正などが必要になります。
・社会保険
扶養の資格喪失日にさかのぼって健康保険料や年金の支払い義務が発生します。
・会社の家族手当
支給対象者でなくなった日から誤って支給されていた分の返金が必要です。
扶養外れて手取り減額でも将来的にはプラスになる?
妻が扶養の恩恵を受けながらパートやアルバイトで働くとき、一番大きなターニングポイントと言えるのは、やはり社会保険加入の義務が生まれる「給与年収130万円」でした。
収入が130万円を超え、新たに自分自身の社会保険料を支払うことになると、目先の手取り収入がガクッと減ります。多くの人はそれを「働き損」と感じるかもしれませんが、マイナス面ばかりではありません。
社会保険に加入するメリットは、主に3つあります。
- 国民年金に加えて厚生年金が上乗せされ、将来の年金額が増える
- (出産一時金とは別に)出産手当金が支給される
- 障害厚生年金が上乗せされ、傷病手当金の支給もある
現時点での手取り収入が減ったとしても、老後を支える年金が増やせ、出産や病気・けが、障害に対する保障が手厚くなるのは大きなメリットです。そして、これらのメリットは働く年数が長いほど大きくなります。
仮に今後10年働くとしたとき、その期間の手取り収入は減ったとしても、結果的に、将来受け取る厚生年金の合計額は年収減額分を上回りますし、年収や年金加入期間に応じてその時期も早まるのです。さらに、130万円を超える年収であれば、節税対策や老後の資金対策としてiDeCo(☆)を活用するのも一つの手です。
扶養から抜けて働くかどうかは、このような事実も踏まえて長期的な目線で判断すべきでしょう。
なお、今回の記事では夫(納税者)が会社員で、妻(配偶者)の勤務先に社会保険があるケースで見ています。夫が自営業者であったり、妻が扶養を外れた後に国民健康保険・国民年金に加入する場合は、控除額や税額、社会保険料などが異なるためご注意ください。
☆iDeCo(イデコ)とは? 個人型確定拠出年金(こじんがたかくていきょしゅつねんきん)のこと。専業主婦や自営業者、フリーランサー、会社員の中でも特に企業型確定拠出年金が導入されていない企業に勤める人が利用できる。公的年金や企業年金にプラスするかたちで自分で積み立てる「年金」のことで、2017年1月から加入対象者が拡大したことから、いま、老後資金づくりの方法として注目を集めている。(参考:これなら分かる!「確定拠出年金」がお得と言われる理由)
長期的な視点でベストな選択を
扶養内に抑えるため短時間勤務限定という働き方では、昇格の機会を得られなかったり、仕事内容も補助的なものに限られるといったこともあるでしょう。もし、その仕事にやり甲斐を感じているなら、扶養内にこだわらず働くほうが、キャリアップや将来的な収入アップへの道につながるかもしれません。
働き方は人それぞれで、正解も間違いもありません。扶養から外れるタイミングも最終的には十人十色。自分の働き方を見つめ直して家族でじっくり話し合い、最良の選択を見出せれば何よりですね。
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