左からダイアン・レインさん、エレノア・コッポラ監督、樹木希林さん(写真=DAILY ANDS編集部)

「女が主演で、監督も女。お金を集めるのに6年かかった」80歳エレノア監督の挑戦

映画『ボンジュール、アン』来日記者会見リポート

女性が何歳になっても輝き続けること、トライし続けることの楽しさを表現した映画『ボンジュール、アン(原題:PARIS CAN WAIT)』が7月7日、日本で公開されます。

『ボンジュール、アン』は、映画界ではまだ珍しい、女性監督、女性主演という組み合わせで制作されているのも特徴の一つ。そして、公開までには、女性監督、女性主演だからこそ制作費を集めるのに苦労したというエピソードもあったのだとか。

80歳で初めて長編実写作品の監督・脚本に挑戦したエレノア・コッポラ監督と、主人公の「アン」を演じた女優のダイアン・レインさんの来日記者会見(6月7日開催)から、制作秘話をリポートします。

会見には女優の樹木希林さんも応援に駆けつけ、会場を盛り上げました。(以下、敬称略)

日本文化から受けた感銘を、映画に移し替えた

『ボンジュール、アン』の主人公は、仕事ばかりで家庭には無頓着な夫を持つアン。子育ても落ち着きはじめ、人生の一区切りを迎えようとしていた頃、夫のビジネスパートナーと思いがけずパリを旅することになり、旅を通じて自分自身を見つめ直し、人生の喜びや幸せを新たに発見していきます。

エレノア・コッポラ監督は、夫が映画監督のフランシス・フォード・コッポラさん、娘も同じく映画監督のソフィア・コッポラさん。母として、そして最高のスタッフとして、コッポラ家を陰で支えてきました。『ボンジュール、アン』はそんなエレノア監督自身の体験を基に描いた長編実写作品となっています。

ーー お二人からまずは一言ずつご挨拶をお願いします。

エレノア監督:グッドアフタヌーン。本日はようこそお越しくださいました。興味をお持ちいただいたことにとても感謝申し上げたいと思います。長編の初めての映画をできることを大変うれしく思っています。

ダイアン:この作品を応援してくださってありがとうございます。非常にこの作品を誇りに思っていますし、エレノア監督の初フィクション作品を皆さんと分かち合えることもとてもうれしく思っています。最後に、大好きな日本に再び戻って来られたことに感謝しています。

imageTitle (写真=DAILY ANDS編集部)

ーー日本公開を控えて今どんな気持ちなのか、教えてください。

エレノア監督:日本公開が迫って胸がドキドキしております。この映画のテーマ、経験は異文化に接したときにみんなが感じるものだと思います。私の場合、日本に対して、文化に接したときの感情、感覚がヒントになるものがあり、日本に来る度に日本の芸術、華道、それから日本人の感性や自然を愛する気持ちに非常にいつも感銘を受けるわけです。そういうときの感銘を移し替えて、描いたのがこの映画となります。

ーー長編劇映画、初監督を務めたわけですが、やっぱり劇映画を撮るというのは今までとは違う気持ちなのでしょうか。

エレノア監督:とても違うと思います。私はドキュメンタリーを撮ったことはありますが、一瞬の命をその場で早くとらえることがドキュメンタリーでして、目に見えたことを一瞬でとらえないといけないのですね。ところが、フィクションはまったく違うわけで、いろんなことを自分で考えて、クリエイトして、入れていくことができる。一コマ、一コマを自分で作れるのです。そこがまったく違うのです。フィルムを作る責任も違いますし、アートのフォーム、つまり芸術の形としてドキュメンタリーと違うと思います。今回この機会を得られたことを、私は非常に幸せだと思っています。またその幸運にも、ダイアン・レインのような素晴らしい女優さんを含め、素晴らしいキャストを組むことができたというのは、本当に初めての挑戦が生きたと思います。

物語が「恋の始まり」じゃないことに、ほっとした

ーーダイアン・レインさんはエレノア監督の「アン」をどういう風に感じながら演じましたか?

ダイアン:今回アンを演じてほっとしたところというのが、この物語が必ずしも恋愛の始まりの映画じゃないというところだったんですね。

作品冒頭、2人はある種の枠組み、「夫のビジネスパートナー」と「ビジネスパートナーの妻」、そういう枠組みをもったなかでお互いをある程度知っていて、礼儀正しさもったなかで始まります。当然、それを観ている我々も、表面的な距離のあるまま最後までいくのかなと思うと、それが変わる瞬間があって、私はそこにすごくワクワクしました。自分の知る自分をさらに掘り下げたり、自分にはこういう面もある、ということを知るきっかけになる。これは誰にでも、誰かと出会ったときに起こりうることだと思いますし、ワクワクできること、そして、誰かと出会って物事の見方が変わることがあるということです。

ーーダイアンさん自身がアンに共感するところ、共感しないところがあれば教えてください。

ダイアン:そうですね……。アンがした経験とまったく同じ経験を自分もしたことがある、というのが一つの共通点だと思います。なかなか自然発生的なことに身を任せる、というのは現代を生きる我々にはあまり起きないことと思います。そして、誰かをひとつの文化、カルチャーへのガイドのように信頼すること。今回、文化への入り口が「食」でした。食というのは、誰もが食べなければいけないものでありながら、ものを口にするというのはとても官能的な、ポエトリー、「詩」を感じられる行為だと思うんですね。

ほかの点でいうと、人生のタイミングですね。もともと監督はアンと同じ年代の女優さんがいいと言っていましたが、私はちょうどアンと同じ年齢で撮影することができました。タイミング的に子供達が巣立ってしまって、そのあとどうするのか、もちろん時間を戻すことはできないから前に進むしかないのだけれど、進む先は新しい領域なんですよね。多くの人が共感できる、非常にデリケートなテーマを扱っている映画だと思っています。

imageTitle (写真=DAILY ANDS編集部)

「女が主演、女が監督」だと、みんな引いちゃう

ーー女性監督かつ、女性主役の映画というのはまだ少ないように思いますが、その中でこの映画はどのような意義を持つのでしょうか?

エレノア監督:この映画ができた意義で注目すべきは、私はこの映画を6年前に企画しましたけれども、お金が集まるまでに6年間、奔走したわけです。みんなこういう映画にお金を出したがらないんですね。女の映画で、しかも女の監督ですと、みんな引いちゃうわけです。それが今、可能になったというのは、特別な意味のある瞬間がきたんだと思います。そして、ダイアンが演じます女性は決して普通の夫の妻、つまり刺身の「つま」のようなものではなく、本当に彼女が主役、出ずっぱりの役なわけです。そういうものがちゃんとお客さんを見つけて成功すれば、こういう映画にも今後お金が出るという宣伝になっていく。そういう非常に意義のあることだと思っています。

ダイアン:意義のあるご質問なので、ちょっとだけ私も貢献させてください。自分も自分の人生を通して、映画業界のなかで、こういった葛藤をずっと目にしてきました。1950年代はちょっと違ったと思うんですよね。女性たちの物語が作品自体の物語でもあったから、スクリーンタイム、つまりスクリーンに映っている時間も非常に長かったと思います。そして、日本ではどうかはわかりませんが、アメリカで読んだ記事のなかで指摘されていたのが、とにかく興行成績、特に最初の週末の成績がすべてなんだ、と。そういう見方しかされないという点だったんです。かつての映画は、公開されても、最初の週末で厳しく裁かれることはなかったと思うんですね。ゆっくりと、口コミで広がったり、ご覧になった方が少しずつ観に来てくださることがあった。それを鑑みると、皆さんに申し上げたいのは、自分が観たい映画を最初の週末にぜひご覧にいっていただきたいということです。そういう形で、応援ができると思います。

imageTitle (写真=DAILY ANDS編集部)

才能ある女性スタッフが集まった

ーーダイアン・レインさんに質問です。今回の作品がこれまででも最も輝いていたように思います。エレノア監督の演出で特に印象深かったことを教えてください。

ダイアン:エレノアさんがほかの監督と違ったところというのが、自分のアーティストとしての経験、自分を知っているからこそ、他者を信頼することができるというところだったんです。彼女の前で彼女をほめるのも申し訳ないんだけれども、今回の作品もすべての部署に最高の畑で、特に女性の才能ある方が集まってくださったんですが、そういった方を集めることができて、彼らを信頼することができたからこそ、最高のものをそれぞれに引き出すことができたと思います。これが、これまでの監督と違いました。ほかの監督に比べると、エレノア監督はコミュニケーションが密で、外からの提案にオープンでいらっしゃったんです。今回、制作の2年前に話をもらったんですが、当時は参加できないかなと思ったんですが、2年後そういうお話をいただいて参加することができました。その間、脚本もちょっと変わっていたと聞きました。それもまた、エレノアさんが脚本家としてもオープンにほかの人の意見を受け入れることができた、耳を傾けられたからだと聞いています。そうやって、どんどん取り込んでいく、というのはジェンダー論に聞こえなければいいなと思うけど、どちらかというと女性的な強みかなと思いますし、エレノアさんの魅力だと思います。

エレノア監督:私は主役の女優さんを演じる方に、最も素晴らしいプロで芯の強い方を求めていました。ダイアン・レインはナンバーワンチョイスでした。彼女は6歳の時から映画界で働いている、プロ中のプロでいらっしゃる。そして、本当にその実力を発揮される。驚いたのは、スクリーンの中の彼女は、肌の中までその人物になりきっている感じがしました。その役作りの凄さ、パーフェクトな存在感は、彼女以外にはできなかったと確信しています。彼女の場合は、コラボではなくて、彼女がこの映画をつくったのであって、私は何も協力しておりません(笑)。

imageTitle 『ボンジュール、アン』の字幕翻訳者であり、この日エレノア監督の通訳も務めた戸田奈津子さん(左)と、エレノア監督(写真=DAILY ANDS編集部)

「声の演技」は映画の中でとても大切

ーー映画興行の話が出たのでちょっと聞いてみたいのですが、日本において、最近、映画の大作で吹き替え版の上映が増える傾向にあります。海外で公開する上で、俳優さん、監督さんにとってその点はどういう風に感じられるでしょうか。

エレノア監督:私としましては字幕は俳優さんの声が聞こえるのはとても重要だと思います。声の演技というのは映画の中でとても大切なことで、アクション映画はともかく、特にこういう映画は字幕で上映されるのは非常にうれしく思いました。この映画は吹き替えがないんですね。こういう映画は字幕で観ていただくことが正しい観かたではないかと思います。

ダイアン:個人的には映画を観るときは字幕派です。字幕を観るのはより力必要かもしれません。字幕に限りあるぶん、ユーモア、細かい部分、全て理解できないときもあるかもしれません。私はフランス語を少し話すんですけれども、フランス語で映画観たときに、ちゃんと意味わかっていないときもある。それは仕方がないことでして、私はオリジナルの演技、オリジナルの役者さんの声を聞きたいんですね。

樹木希林さんも登場

imageTitle (写真=DAILY ANDS編集部)

ここで、樹木希林さんも会場に駆けつけ、エレノア監督とダイアンさんにバラの花束を手渡しました。

司会:樹木希林さん、映画の感想を教えていただけませんか?

樹木:日本でもちょうど50を過ぎて、やっぱりね、こんな生活でいいのか、夫に沿っていていいのかと。特に才能ある奥さんなんていうのは、すごく悩み始めるときなんですね。そういう人が周りにうんといます。そして、離婚しようかなと思うけれども、踏みとどまってしまうという人がたくさんいるんです。そういう人たちが、この映画を観たときに、胸に落ちるんじゃないかって、そういう感想を持ちました。そして声がいいんですよね、ダイアン・レインさんの。笑い声、またそれがいいのね。とってもいいと思いました。なので、日本でも字幕で観るべきだなと思います。

司会:樹木さんはアンに対して共感するところはありましたか?

樹木:私はあの、えー、エレノアさんのように、夫に仕えていませんで、長いこと。(会場笑)50年近く別居していますので、何も苦労していません。ですから、共感するところはちょっとないかもしれません。

imageTitle (写真=DAILY ANDS編集部)

司会:最後に、エレノア監督、ダイアン・レインさん、日本で映画を楽しみにされてい方にメッセージをお願いします。

エレノア監督:皆さの私の映画に対する興味、情熱を感じまして、感謝しています。大変素晴らしい記者会見でした。特に私の好きな日本でこの機会を持つことができうれしく思います。これまでも夫、娘の記者会見を何回も日本で傍聴していますが、私が主役で記者会見をするのは初めてでした。それも大変うれしいことでした。

ダイアン:先にこの映画に関心を持ってくださってありがとう、と伝えたいです。本当にエレノア監督のつくりあげた作品に対して誇らしく思っていますし、映画をご覧になるときは、結構最近よくつくられている、中毒性のある「アドレナリン的」な映画ではないので、ちょっとこうリラックスして、おなかもあごもゆるりとして、90分間、「あー、私もあそこに行きたいな」、そんな気持ちで楽しんでいただけるとうれしいです。

imageTitle (写真=DAILY ANDS編集部)

映画『ボンジュール、アン』について

imageTitle the photographer Eric Caro

映画『ボンジュール・アン』
公開:7月7日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
仕事ばかりで家庭には無頓着な夫を持つ1人の女性が、子育ても落ち着きはじめ、人生の一区切りを迎えようとしていた頃、思いがけないパリへの旅を通して、自分自身を見つめ直し、人生の喜びや幸せを新たに発見することとなる。美味しい食事やワイン、コート・ダジュール地方の美しい景色や遺跡などギュッと詰まったフランスの魅力とともに、明日からの自分もちょっと楽しみになれる“心にも美味しい”、そんな初夏にぴったりの作品となっている。

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