(写真=森口新太郎撮影)

「信じたくて」山一證券の株を買い続け、財産を失いました【谷本有香さんの失敗談①】

デキる女性の「投資の失敗談」シリーズ

こんにちは、DAILY ANDS編集長のくすいともこです。

女性向けの資産運用メディアを運営していると、「資産運用?お金が減るのは絶対に嫌だから興味もないし、やりたいとも思わない」という女性にしばしばお会いします。

お金が減るのは確かに怖いし、せっかく頑張って働いて貯めたものだから悲しい。その気持ちはよくわかる。

でも、お金が減る可能性と同じくらい、お金が増える可能性だってあるし、もし投資先が自分の応援したい企業だとしたら、値段が上がっても下がっても楽しい経験になるのに。というか、投資で成功している人だって必ず失敗した経験があって、それを乗り越えられたから成功しているのに……。

……そうだ。投資の失敗談を聞いてみよう。それも、「デキる女性」に。

今、活躍している方々もずっと「成功」しているのではなく、「失敗」あってこそ、今があるということ。お金のプロだって、資産運用でお金が減った経験があるということ。

そして、「投資」には確かに、お金が減る可能性もありますが、それを乗り越えることが大きな一歩になると。失敗談にはそのようなことを伝える力があるのではないだろうか。

というわけで、この度、さまざまな分野で活躍する女性たちに「投資の失敗談」を伺うインタビューシリーズをスタートすることにしました。

第1弾は、Forbes JAPAN副編集長兼WEB編集長の谷本有香さん。谷本さんといえば、新卒で破たん直前の山一證券(☆)に入社した経験の持ち主です。

どんな失敗談が飛び出すのだろう……ドキドキしながら虎ノ門のオフィスを訪ねました。

☆山一證券とは?
1897年創業、「法人の山一」とも呼ばれ長らく日本の四大証券会社の一角を担ってきた。バブル崩壊後、損失を隠ぺいするためのさまざまな不正行為が明るみとなり、1997年、自主廃業に追い込まれた。山一證券の破たんはバブル崩壊を象徴する出来事となり、「社員は悪くありません。悪いのはすべて経営陣です」と話す当時の社長の号泣会見の映像は、時おりテレビで放映されることがある。(参考:かつての日本の「四大証券」の一角、「山一證券」の破たんから20年/ZUU online)

新卒のときから投資はめちゃくちゃしてました

ーー今回のテーマは「投資の失敗談」ということで、資産運用で失敗した経験を教えていただけたらと思っています。まず、谷本さんといえば、山一證券にいらっしゃったことがあるかと思うのですが、当時、ご自身でも資産運用っていうのはなさっていたんですか?

投資はめちゃくちゃしてました。私のような一般職で入った女性というのは、投資は一切しないか、公社債さえ買わないか、貯蓄に全部まわすか、やったとしても本当にもうほんの数パーセントが公社債投信(☆)を買うというくらいです。そんな中で私は、いやいや今絶対株は買いどきだ、こんなに安くなっているし、山一證券まだまだ伸びる余地もある、みたいに思って、ずっと(山一證券の)株をむちゃむちゃ買っていたんですよね。

☆公社債投資信託(こうしゃさいとうししんたく)とは?
大手企業や公共団体など、格付けが手堅い「公社債」に投資をする金融商品のこと。お金を預ければ、さまざまな投資先に分散投資してくれる。(参考:なぜ「ほったらかし資産運用」だけでは不十分なの?【アラサーと投資④】

ーーいつからですか?

入社してからすぐなので、22〜23からですね。

ーーいくらぐらい投資していたんですか?

今思えば月給の3〜4割は入れていたと思います。3割が自社株、1割が公社債みたいな感じだったと思います。

当時は実家暮らしだったのですが、必要経費以外はほとんど投資するみたいな感じだった気がします。

ーー3割が株で、公社債が1割ですか。

かなりの量ですよね。それでも当時の私は全然元を取れるどころか、きっと何倍にもなるだろうな、と思っていました。絶対にこれが正しいっていう気持ちがずっとあって、下がれば下がるほど、割安だ、と。

ーーそれって当時珍しいですか?それとも意外と普通だった?

めちゃくちゃ珍しいと思います。まず、男性社員でさえもそれをやっていなかったと思うんですよね。株が大好きな人とかはもちろんいましたし、自分の勤務先を応援する意味でも買ってる人はいましたけれども、でもだからといって、いわゆる成長株として買っているわけではありませんでした。

ーー破たんという結末を知ってるだけにすごく恐ろしい気持ちになってきました……。(笑)

そうです。恐ろしいことになっていますよね。(笑)

imageTitle (写真=森口新太郎撮影)

山一證券が危うくなっても、「買い時が来た!」と思ってどんどん買いました

ーー入社したのが1995年ということですから、破たんまで1年半ほどかと思います。その後、株価が下がっていきますよね。

株価が下がっても、「買い時が来た!」と思ってどんどん買う感じでしたね。

そういう感じでずっと過ごしてきて、2年目くらいから、怪しいような、飛ばし的なニュースが出てくるんですよね。

ただ、当時私は社内の経済キャスターを務めていたので、役員さんに近い場所にいたので、いろいろ話を聞く機会が多くて。たとえ万が一、何かが起こったとしても、こんな大きい会社の株がゼロになることはないです、と。どこかに買収されるなりして、余計にバリューがついて(株価が)上がることこそあれ、ゼロになることはないからって聞いていたので、さらに自社株を買う、みたいな。

恐ろしいことしていたんですよ。(笑)

ーー周囲の人はあまり買っていないわけですよね。(笑)

それがね、多くはないのですが、私と同じ考えの人もいるわけですよ。チャレンジャーというか。ある意味投機家じゃないですけど、「今買いだよね」と考えている人を見つけて安心して一緒に買う、ということをやっていたんですよね。

それは一方では、私が不安な材料を打ち消したいという気持ちもあったかもしれません。

当時、みんな通勤電車で新聞を読むわけですが、証券会社って朝早いですよね。なので、私が通勤する時間帯は周囲はみんな証券会社の人ばかり。周囲が全員、「山一證券危ない」っていうのが一面に載った新聞を広げている状態なんです。

そのプレッシャーって、なんですかね。ものすごいトラウマになるわけですよね。

そういう状況に囲まれながら、いやいや大丈夫っていう思いを持ちたくて、応援する気持ちも含め、願かけなのかもしれないし、いろんな思いがあって、どんどん株を買い増していました。

今思えば本当に何をやっていたのか、という感じなんですけれども。

信じたいし、応援したいし。あとは絶対大丈夫っていう気持ちを持ちつづけるために買っておく、みたいなのもあったりして。そんな意味で買ってましたね。

破たん直前、借金をして買う人もいました

ーーそのあとはどうなりましたか?

それこそ、やばい、というような時期に入ってくるわけですよね。1997年の10月、11月くらいですかね。株価が100円を切りました、みたいな。

ーーその頃って社内の雰囲気とかどうなっているんですか?

そのこと語らせたらめっちゃ長いですけど(笑)、破たんする1年くらい前から、ドラマの中にいるみたいでしたよ。

どういうことかと言うと、これ私よく言うエピソードなんですけど、私は一般職なので会社の正しい状況が全くわからないわけなんですよ。何が起こっているかわからないけれども、毎朝役員と一緒に社内向けのテレビ番組に出るわけなんですよね。収録が終わったときに、「本当にうちの会社大丈夫なんですか?」って聞くと、大丈夫に決まっているよってみなさんおっしゃるわけですよ。

ちょっと話が前後しちゃいますけど、三連休(山一證券が自主廃業を発表したのは1997年11月の三連休最終日)の一番最初の日に、日経新聞の報道が出たわけなんですね。その前日、私は役員さんと、「北海道拓殖銀行の人は、自分の会社がつぶれるって知らなかったみたいよ」「そんなことありえないよなー」「絶対に知っているはずだよね、自分の会社がつぶれるなら分かるよね」って話していたんです。

だから役員さんさえ知らなかったんですよ。本当にそういう状態だったので、みんなまさか、って思ってましたね。

ーーなんか、コントの世界ですね‥…。

本当にそうです。

本当に(うちの会社は)まずいってなったとき、クレディ・スイスじゃないか、メリルリンチじゃないかとか買収先の名前が出ていました。もううちは存続はできないかもしれないけれど、どこに買収されるんだろうね、っていう話をしてたわけなんですよね。

だからそれこそ、株はなんらかの形で維持されると。なので大丈夫だねって言って、直前もみんなこぞって自社株を買って、何百万って、借金して買ってる人もいましたね。私はさすがに借金はできなかったんですけど。

ーー借金してまで……!

ちょっとさかのぼりますけど、毎朝新聞に載るってどういう状況かというと、社屋を出たりすると、新聞記者とか雑誌の記者に囲まれるわけなんですよね。ノーコメントです、とか言うと、なんで教えてくれないんですか?って言われて、ほかの人はもうしゃべってますよと。いくら積み増せばしゃべるんですかってことを言われたりするわけですよ。

人間不信じゃないですけれども、そういう手段をもってして聞き出すっていう、マスコミに関してはものすごい怒りがありましたし。感情的に揺さぶられることが1年間くらい起こったわけなんですよね。

ーーかなり異常事態ですね。

これは尋常ならざることが起こっていると、はっと気付いた出来事があります。

私は社内向け番組のキャスターだったので、支店長会議とかに取材に行きます。そうすると、有名な支店長のひとりがみんなの前で、こう話すんです。

自分の支店の男性社員が非常に悩んでいます。どういうことで悩んでいるかっていうと、お子さんが学校でいじめられている。お前の父さんの会社は泥棒だって言われていて、学校に行けなくなっちゃった、と。だから、お父さんの会社ってすごいね、お父さんって本当にかっこいいよねって言われて、いってらっしゃいって笑顔で送り出されるような会社にしなくちゃいけないって、ものすごく怖いことで有名な支店長が泣かれたんですよね。

あとは経済っていうのは、会社が悪いことをしたら、従業員が苦労するだけじゃなく、株主はもちろん、従業員の家族、しかも子どもさんにまでこんな影響を与えるんだ、ひとつの不祥事を超えて、経済というものの成り立ちを知ったというんですかね。経済ってここまで人間の生活であれ人生であれというものを、おおいに揺るがせたり損なったりすることができるものであるんだ、と。

もしこの会社がそれに加担しているのであるならば、それは罰されてしかるべきであるし、社員もそうなんでしょうけれども、償える余地みたいなものもあるんじゃないか、みたいなことを思うわけなんですよね。

しかもその当時は、本当に何が起こっているのかわからなくて、報道内容が本当なのかもわかりません。本当にやったの?とか。でもそんな証拠も出てないし……そうこうしているうちに、隣の部署の方が、殺害されたりして、そういうことが次々に起こりました。

先ほどもちょっと言ったように、自分の精神状態を保つためにも、山一は悪くないと、山一は確かにやったかもしれないけれど、まだ償える、もしくは顧客だったり株主の方たちになんらかの形で、応援している人たちに恩返しができるような会社として存続しなければいけないって意味を込めて、自社株を買い続けたところもありましたね。最後の最後まで信用しているというか、信じ続けたというんでしょうかね。

ーー逆に働いている人を知ってるからできるところもあるかもしれないですよね。

そうかもしれませんね。たとえ悪いことをやっている人がいたとしても、それは全員じゃないわけですよね。よく「人の山一」って言われている会社で、ものすごくいい人が多かったわけです。

なので何か誠意を示したいと。顧客であったり株主さんであったり、いろいろな方たちに、クライアントさんであったり、ステークホルダーさんだったり。

その誠意を示すやり方というのが、何が起こったかを知るまでは、わからなかったわけですよね。社員全員が。

自社の株を買っているのは自分たちだけじゃありません。買ってくれている人が大勢いるわけで、その人たちを助けるために支えなければいけない、みたいな。そういうのもあったような気がしますね。

imageTitle (写真=森口新太郎撮影)

やっぱり正しい会社、応援される会社が買われるべきだと思う

ーーその後は、どういう風になっていったんですか?

いまだに計算していないんですけど、何百万になっているはずの自社株がけっきょくゼロになりました。

そのあとどういう心境になったかというと、二度とこういう会社をつくってはいけないと。それによって泣く従業員であったり、ご家族を増やしちゃいけないと。株主さんも、こういう形で損なわれるということをしてはいけないというふうに思いましたし、私の怒りの矛先はメディアにも向かったんですよね。

証券会社って、信用で成り立っているじゃないですか。なので、信用さえなくならなければ、こうならなかったと。

私自身何かしらの形で経済に携わりたいと思っていましたが、セールス経験や取引の経験もないので、経済にキャスターになろうって決めたんです。私が唯一持っている経済との接点は、キャスターしかなかった。それならば私はオンリーワンになれるという思って、みんなにばかにされるなか、日本で初めての経済キャスターになろうって思ってこの道に足を入れていったんです。

ーーご自身の資産運用の方針はどうなりましたか?

私のなかでの指針としては、投機みたいな売買っていうのは、ものすごく嫌なんですよね。

金融や経済に15年ほど携わっていますが、世の中にはやはり投機をすすめる人もいます。もしくはどんな手段を使っても、儲かればいいじゃないかっていうスタンスがあったりします。

でも私のなかでそれはすごく摩擦みたいなもの、心のなかにハレーションみたいなものがあって、やっぱり正しい会社であるとか、応援される会社っていうものが買われるべきだとっていう、旧来型の金融のあり方みたいなところをずっと持ち続けています。

自分自身もコメンテーターをして、分析をして、いろいろ推奨する立場にいましたが、その部分は揺るがすことをしなかったっていう自負はありますね。

ーー根っこには山一證券での失敗経験があった?

そうです。ありますね。

例えば、オリンパスの事件のときもきちんと財務指標を見て、どういうことが起こっているのかを、感情的に報道せずに、きちんと数字に基づくであったりとか、きちんと確証を持てるような裏づけを取りにいくであったりとか、そういうふうにやって報道してきたつもりはありましたね。

なので、自由に売買できる立場がずっとなかったものの、そのあとも株に対する思いっていうのは、自分の投資も含めて、どちらかというと儲けてやろうみたいな気持ちは一切なく、応援したいとか、いい会社そうだとか、そういう思いで買ってきたというのはある気はしますね。

次回は、投資信託での失敗談

インタビュー早々、大きな失敗談が飛び出しビックリです。

その後の谷本さんは株ではなく投資信託(☆)を買うような資産運用にシフトしていったそうなので、試しに投資信託でも失敗ってあるんですか?と聞いてみました。

すると、「ありますよ。というか、私が買った投資信託でプラスになったものはないかもしれませんね」という返答が。

どういうことでしょうか?(続く)

☆投資信託(ファンド)とは?
資産運用の専門家が株や債券などを取りまとめて運用してくれる金融商品。ひとたび資金を預ければ、その道のプロが経済動向や個別の企業についての情報収集をし、タイミングをはかって売買してくれる。ただしプロが運用することに対して手数料がかかる。商品選びの際はよくチェックしよう。(参考:5分でわかる! 積立投資信託のアウトライン

【谷本有香さんの失敗談はこちらから】

取材に協力してくれたのは…

imageTitle (写真=森口新太郎撮影)

谷本 有香(たにもと・ゆか)さん
Forbes JAPAN副編集長 兼 WEB編集長。証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして従事し、2011年以降はフリーのジャーナリストに。多数のテレビ番組に出演の他、メディアへのコラム寄稿、経済系シンポジウムのモデレーター、企業のアドバイザーなども務める。これまで1000人を超える世界のVIPにインタビューした実績をもつ。著書に自身のノウハウを凝縮した『アクティブリスニング なぜかうまくいく人の「聞く」技術 』(ダイヤモンド社、日本・台湾・韓国で出版)など。

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