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休恋中アラサーOL「株と元カレ」ヒミツの日常:後編

仕事も、恋も、プライベートも。全ては株で回ってる

AM 9:00

丸の内にあるオフィスからは皇居が見える。朝、窓から光が差し込むこの時間が、由佳は好きだった。

「おはようございます。先輩はいつも元気ですねー。私なんて、起きるのつらくて…!」

そう言いながら遅刻ギリギリでやって来たのは、同じ経理課のサワちゃん(26)。サワちゃんは由佳より9歳下の美人な子。入社してきた時は、会社中の男どもがサワちゃんを見に来たという伝説を持つほどだ。

「そうだ! 先輩、実は新しいPCを買おうと思ってるんですけど、ソニーのバイオと、サーフェス、どっちがいいと思います? 調べていたら、寝るのが遅くなっちゃって」 サワちゃんは、ふわああ……とあくびをしながらそんなことを言い出した。

「バイオはもうソニーじゃないよ。2014年に他社に売却したの」
「え? 知らなかった。先輩って何でもよく知ってますよねー」
それは株式投資をやってるからよ、と由佳は心の中で返事をする。

“ソニー <6758> の決算は下方修正だったけど、株価の反応は限定的だったな。プレステーションVRは好調みたいだし、今後の動向に要注目だね!”

AM 11:00

お昼まではとにかく仕事に集中する。経理の仕事は地味で好きとはいえないけれど、株式投資を始めてからは仕事に本腰も入った。財務諸表をもっと読めるようになりたいからね。

「先輩、今日ランチしませんか?」
サワちゃんに誘われ、2人でぐるなびをチェックする。

“ぐるなび <2440> といえば成長株の一つ。海外旅行口コミサイトとの連携も始めたし、インバウンド銘柄でやっぱり買っとくべき?”

サワちゃんが、「先輩、ここにしましょう!」とビュッフェレストラン「三尺三寸箸」を勧めてきた。柿安本店が展開する野菜たっぷりメニューが評判の店だ。

“柿安本店 <2294> か。配当利回りは確か2.36%(2016年12月13日)。株主優待も100株で1000円の優待利用券がもらえるし、買ってもいいな。リサーチも兼ねて行ってみるか。”

「いいね。行こうか」
そう由佳が答えると、サワちゃんは「あ、でもお店あるの日比谷シャンテだ」と言い出した。
「シャンテか、遠いねえ」
「でも、この『大根の旨煮』はおいしそう~」
サワちゃんは悔しがり方は相当本気だ。

PM 1:00

日比谷シャンテ内を歩く由佳とサワちゃん。

「サワちゃん、ちょっと食べ過ぎたんじゃない?」
「いいんです! ビュッフェはがっつり元取らなきゃ」とガッツポーズをするサワちゃんを見て、由佳はくすくすと笑った。

その時だった。
直人がいる……! 由佳は反射的に、エスカレーターに向かって駆け出した。
「ちょっと、先輩っ!」
叫ぶサワちゃんの声も由佳には届いていない。

PM 2:30

由佳は、丸ビルの椿屋茶坊で、一人お茶をしていた。あのとき、考える間もなく直人の姿を追いかけたのに、すぐに見失ってしまった。サワちゃんに謝り仕事に戻ったものの全く身が入らず、ここへ逃げて来たのだ。

直人が出て行って3年もたつのに、由佳の頭の中は、さっきからずっと「直人」という単語がグルグル回り続けている。

サイフォンでいれた本格的なコーヒーを一口。マイスターがいれただけあってクリアな味わい。さすがにおいしい。

直人も毎朝コーヒーをいれてくれた。お湯を落とし切ってしまうと雑味が出ると、妙にこだわっていた。「雑味があるほうが、コーヒーも人も味があっていいんじゃない?」由佳がそう聞くと、直人は

「僕はおいしいところだけを由佳さんに味わってほしいんです。だって本当においしいものって、人を幸せにするでしょ。僕は由佳さんの幸せそうに笑ってる顔が好きなんです」

そう照れもせず答える。これだからイケメンの年下は……とその時は思ったけれど、今では直人が正しかったと思う。そうね。そうよね。直人との生活はおいしかった。それで十分。

“椿屋珈琲グループの東和フードサービス <3329> は、株価はイマイチだけど、もっと下がったら買い増そうかな。株主優待は100株で500円の優待食事券が3枚もらえるし、結構ここ使うから。”

よし、いつもの調子が出てきた。これが私なのだと、由佳は思う。時計を見たら、もう14時55分。あと5分で東京株式市場が終わる。スマホをいじると、ファーストリテイリング <9983> の株価は、朝より一段と高くなっていた。由佳は売りのボタンを素早く押した。

株, 株式投資, アラサー, OL (写真=Thinkstock/GettyImages)

PM 6:00

サッポロ生ビールが飲める銀座の和風居酒屋で、由佳はサワちゃんと2人、飲んでいた。

「先輩が誘ってくれるなんて珍しいですよね。何かありました?」
「ちょっとね……っていうか、今日は飲もう。おごるから」
「ほんとですか? やったー!」
それ以上何も聞いてこないサワちゃんの優しさに、大人だなと由佳は思った。

“サッポロホールディングス <2501> は、今年の12月から100株でも株主優待をもらえるから、来年からはビールの詰め合わせが届く。そしたら、サワちゃんを家飲みに誘おう。”

PM 10:00

お風呂の中で、昼間の出来事をぼんやりと考える。新発売の資生堂のシャンプーは指通りが良くていい感じだ。香りも好き。

“資生堂 <4911> の株は、ついに3000円の大台か。資生堂の株主優待は1000株以上でハードルが高いけど、少しずつ買っていきたいな……。”

お気に入りの「フランスベッド」に潜り込み、そして、「株式王子」のブログを見る。株式王子は北鎌倉から香港へ飛んだらしい。本当に自由な人。

“ホールディングス <7840> は配当利回りが2.75%(2016年12月13日現在)。200株に買い増して、株主優待の「光る杖(ライトケイン)」をおばあちゃんにプレゼントしようかな。”

祖母の喜ぶ顔を思い浮かべると、由佳の心は少し温かくなった。こうして株のことを考えて前向きな気持ちになれるのも、元はといえば直人のおかげだ。

直人、ありがとう。そう呟いて、由佳は眠りに落ちた。

AM 7:00

インターフォンが鳴っている。誰だろう? こんなに朝早くに。由佳は完璧な朝をじゃまされて、ちょっと不機嫌な顔のままドアを開けた。そこに立っていたのは――。

株, 株式投資, アラサー, OL (写真=Thinkstock/GettyImages)

「ただいま」
そう言う直人に、由佳は「おかえり」と笑顔で答えた。

(終わり)

※本記事で紹介する個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄または企業の株式等の売買を推奨するものではありません。購入する場合は自己責任でお願いします。

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