(写真=DAILY ANDS編集部)

YouTuber「バイリンガール」に聞く、好きなことを仕事にするってどういうこと?

Tech in Asia Tokyo 2016より<後編>

アジア最大級のスタートアップ向けカンファレンス、「Tech in Asia Tokyo 2016」の様子をお届けする記事の後編は、外資系コンサルを退職してYouTuber(ユーチューバー)になった、「バイリンガール」こと吉田ちかさんの言葉をお届けします。

吉田さんは現在、フォロワー数が65万人、視聴回数が1億回を超える人気YouTuber。Tech in Asiaでは、どのようにしてフォロワーを増やしたか、今後どのような分野に挑戦していきたいか、を語ってくれました。

好きなことを仕事にするってどういうこと? そして、吉田さんにとって、お金とはどのような存在なのでしょうか?

【Tech in Asia Tokyo 2016より<前編>はこちら】
「海外でも自分の哲学貫く」Wantedly社長仲暁子さんの信念とは

YouTubeのフォロワーをどうやって増やしたか?

まず、ステージイベント(2016年9月7日)で吉田さんは、「Tech in Asia Tokyo 2016」を主催するメディア「Tech in Asia」のコンテンツ戦略ディレクター、David Corbinさんからインタビューを受けました。

バイリンガール,吉田ちか,インタビュー,テックインアジア,Tech in Asia (写真=DAILY ANDS編集部)

――吉田さんは視聴回数をどうやって増やしましたか?

視聴回数を増やすには2つのステップがあります。一つ目は、視聴者を増やすこと、二つ目は通常の視聴者をチャンネル登録者にすることです。

二つ目についてですが、共有(SNSでシェア)される動画を作ることが大切ですが、口コミで呼び寄せる動画を作ることは簡単ではありません。

そこで私は、キーワード検索で出てくるような動画を作ることにしました。

例えば私の場合、どのようなキーワードで検索した人が動画を見ていたかというと、バイリンガール、バイリンガル チカ…などでした。ここから分かったことは、

①ブランディングがよかったということ。私のことを知っている人もしくは探している人が観ているということ
②より頻繁に検索されるキーワードに合わせて動画をつくるようにしたらもっと視聴回数が増えるということ

です。たとえば、「テイラー・スウィフト」というキーワードで検索する人が多いようなので、金髪のかつらをつけて、テイラー・スウィフトの真似をして動画を作ったり。

みんなが知りたいと思っているけれど、コンテンツはまだつくられていないというキーワードを探して動画を作りました。

企業とのタイアップで気をつけることは?

――YouTuberとなって5年ほど経ちました。CEOとしての責任についてはどうお考えですか?

私の場合、今でも撮影から編集まで全て自分でやっています。確かに編集を外部に委託することもできるのですが、YouTubeはユーザーに非常に近いメディアです。編集の仕方にも、自分の個性を打ち出せる方法があって、それは自分でやらないと今は難しいです。あとは単純に自分で編集するのが好きというのもありますね。

ただ、主に変わったところで言うと、自分のブランディングを助けるマネジメントチームがいます。

(ここでオーストリア航空とバイリンガールのコラボ動画が紹介されます)

画像縮小,バイリンガール,吉田ちか,インタビュー,テックインアジア,Tech in Asia (写真=DAILY ANDS編集部)

――ブランドという話が出てきましたね。

今、いろんなブランド(企業)とコラボして動画を制作しています。企業の通常のCMであれば、たとえば航空機の機内を紹介して、サービスのいいところをアピールすることがメインになると思いますが、YouTuberとコラボするとなると、サービスの宣伝だけをするわけにはいきません。なぜなら、そのチャネルを誰がみているかも関わってくるからです。

つまり、YouTuberと企業とユーザー、みんなをハッピーにしないといけません。

このため、私は、クリエイティブの自由をいただかないと、動画制作の依頼は受けないようにしています。動画制作の依頼を受けるというよりもパートナーシップを結ぶつもりで取り組んでいます。そうしないと、いい動画は作れません。

――企業とはどう交渉しますか?

企業にとって、YouTuberとコラボするというのはまだ新しい取り組みなので、理解をしていない方も結構います。動画制作を依頼すれば「宣伝してくれる」と思う企業がほとんどです。なので、説明をしたり、説得したりすることは必要になってきます。

先ほど紹介した動画ですごくよかったのは、オーストリア航空のビジネスクラスに乗り、シェアしたくなる体験をさせてくれたことです。YouTuberなどのインフルエンサーは、基本的にコンテンツをシェアしたい人。クリエイターひとりではできないことを企業が提供してくれるとウィン・ウィンになります。

――マネジメントチームの役割は? 

企業とタイアップのお話もらったときに、これはしないとか、できない、ということを先方に伝えなくてはいけません。それを個人でやるのは難しいので、事務所でマネジメントして交渉してくれたり、価値観とかスタイルとかを理解して、クライアントに説明してくれます。

今からYouTuberになりたい人が気をつけるべきこと

――まだフォロワーがいない、初心者YouTuberにアドバイスをするとしたら?

まず覚えておいたほうがいいのは、実際に動画をアップしても最初のうちはほとんど観られないということ。今、YouTubeに動画をアップすると、世界中の人に観られると思ってハードルが上がっているかもしれませんが、ハードルを上げないで、好きなことをアップしてみると良いと思います。

そして次に、カンタンに成功するわけではないということ。

「YouTuberは好きなことやっていていいよね」とよく言われますが、キャリアになるまでには結構地味でした。お金に関係なく、単純に好きなことをしていて、結果マネタイズできるようになってはじめてキャリアになる。お金目当てではじめるとちょっと辛いかなと思います。

バイリンガール,吉田ちか,インタビュー,テックインアジア,Tech in Asia (写真=DAILY ANDS編集部)

――「お金のためにやるな」というのはビジネスと同じですね。ちなみに、YouTuberのマネジメント事務所はアメリカに比べて日本はそこまで多くないと聞きますが、そこらへんはどうなんでしょう。

いろんなカタチの事務所があると思います。私が所属しているのは、タレント事務所ではなくクリエイティブ事務所です。日頃のブランディングを行ってもらうほか、企業とコラボするとき交渉に入ってもらいます。

YouTuberが一番注意したいのは、自分のポリシーをちゃんと守ってくれる事務所かどうかということ。それは、事務所に入るときの立場にもよると思います。

視聴回数もフォロワーもまだいない、コンテンツ力もないというときに、事務所に入って登録者数を増やそうというメンタリティでは、後で辛くなります。

ある程度自分のスタイルがあって、自分のコンテンツに需要があるということに確信を持って、事務所から声がかかってから入るぐらいだと、事務所とYouTuberの立場が対等でパートナーシップを組めます。事務所、事務所って最初から思っているとうまくいかないのではないかなと個人的には思います。

「常にゴールはいらないのかな」

――AbemaTVやC Channelなど、新しい動画のフラットフォームが増えています。なぜYouTubeにとどまっているのですか?

発見される確率が高いからですね。YouTubeであれば、動画を観終わったあとに関連動画が出てきたり、動画再生されたあとに、サムネイルが出たりして、YouTubeを一回観始めるといろんな動画を見始めます。そこで、自分の動画も発見される可能性が高い。

今のところ、乗り換えるほどのプラットフォームは、私の場合はまだないかなと思っています。マネタイズもビジネスとしてやっているので、そこもかなり大事ですね。

――YouTuberが、広告や企業タイアップ以外でマネタイズする方法はありますか?

講演とか、イベントに出たりとか、商品売るとか、新しいビジネスたちあげるとか。人が集まるところにはいろんなビジネスチャンスがあると思いますし、クリエイティブになればなるほど、ビジネスをする余地はあると思います。

――あなたにとっての最終的な目標は何ですか?

ゴール……は、特に無いです。笑

YouTubeって好きなことをやりはじめて、自分が作っていて面白いことをやって、そこに実はニーズがあったとか、それを面白いと思ってくれる人がいたところから始まっています。それをやり続けるのも一つなのかなと思っています。

特にゴールはなくて、今やりたいこと今ニーズがあることを、今はやり続けます。だからといって違うことをやらないというわけではないけれど、常にゴールはいらないのかなと。今のゴールは1本の動画をとにかく作ってみんなに喜んでもらう、そういうプチゴールがいっぱいあります。

バイリンガール,吉田ちか,インタビュー,テックインアジア,Tech in Asia Tech in Asia会場の様子。国内外のスタートアップベンチャー企業がブースを設けていました(写真=DAILY ANDS編集部)

今こだわりたい、コンテンツの質とは

ステージイベントでは、吉田さんが楽しんでYouTubeの動画制作に取り組んでいる様子、好きなことをマネタイズにつなげるときのポイントを紹介してくれました。イベント後の直接インタビューでは、さらにお金に対する考え方を深掘りしました。

――吉田さんは編集のどこが好きなのですか?

編集を料理にたとえると、編集するって調理と同じです素材が100%よくなくても、編集でどうにか見せられるというチャレンジが面白いです。

単純にものづくりが好きなので、動画をつくるという過程、BGMと映像ぴったりって思う瞬間とかが好き。私はひとりっ子なので、小さい頃から一人でもくもくと絵を書くのが好きだったり、ものをつくるのが好きだったりしました。今もDIYが好きです。

――編集にかかる時間はどれくらいですか?

動画によって全然違うんですけど、一番手間のかからない英会話のレッスン動画で2時間とかですかね。テンポを考えたり、「この内容はやっぱりいらないな」と組み立てなおしたり。60万人が観ているので、単に友達に見せるのではなくて、自分の中での議論があったりします。

――動画制作にかける時間は、YouTubeをはじめた当初よりも増えましたか、減りましたか?

慣れれば慣れるほど編集はうまくなるけど、うまくなればなるほどやりたいことは増えます。終わりがないんです。やろうと思えばどれだけでもやれる。そういう意味でいうと、こだわりはどんどん増えています。

――今、特にこだわっているのはどういうところですか?

映像の質ですね。ボケ感とか、映像の雰囲気とか、照明もそうですし。昔は全然気にしていなかったことも気になるようになりました。

――「いいものをつくっていきたい」というマインドが大きくなっているんですね。品質の捉え方、良いコンテンツの定義は?

品質の定義は難しいです。自分の定義と視聴者の定義が違っています。画質のよさとかテンポのよさとか自分はいいなと思っていても、結局シェアされるのは、感情的にヒットしたものかだったりします。

品質についてはいろんな定義の仕方があるんですけど、わたしとしては全部ヒットしたいですよね。クオリティもよくしたい、内容もある、共感したくなる、シェアしたくなる。全部含まれるように心がけたいです。

――視聴回数は出るようにしながら、自分のやりたいことを追求していくわけですね。

動画の内容によってバランスを考えないといけません。たとえば英会話レッスン動画は、画質よりも内容の方が重要です。いろんなバラエティの動画をアップしているので、ものによってそこの優先順位、伝えたいことによって、フォーカスすべきことが変わってきます。

バイリンガールにとって「お金」とは

――最近、吉田さんがお金をよくかけていることは何ですか?

インテリアとか、家の雰囲気です。家が動画制作のスタジオみたいになっているので。

バイリンガールは視聴者の6割ぐらいが女性です。女性が動画を観たときに、「あの雑貨は何?」と思ってもらえるような、英会話以外のモチベーションになるようにしたいと思っています。

あとは、洋服にもお金をかけます。やっぱり女性が多いというところで、毎回同じ服にならないよう気にする点はありますね。

私は海外生活が長かったので、その影響もあるかもしれません。アメリカでは家やインテリアに対する優先順位が日本人に比べて高いです。日本はファッションやメイクを気にしますが、アメリカは根本的に違うのでそういう影響も受けていると思います。

バイリンガール,吉田ちか,インタビュー,テックインアジア,Tech in Asia (写真=DAILY ANDS編集部)

――資産運用はしていますか?

パーソナルな質問ですね、それはNGで。笑

特にすごくたくさんお金を回しているとかはありませんが、これからそういうことも考えていきたいなと思います。

――外資系コンサルを退職してYouTuberになったとき、年収が下がったと聞きます。好きなことだから乗り越えたとは思いますが、どのようにしてその状況を受け止めましたか?吉田さんにとって「お金」とは、どのような存在ですか?

お金はついてくると思うんですよね。好きなことをやって、それに需要があって、それに必要なパッションを入れられて、努力できたらお金はついてくるという感覚です。お金を追いかけるのではなく、自分のやりたいこと、それにニーズがあれば、お金はあとからついてきます。

働く女性向けのライフスタイル動画を

――今後、目指すべき方向として何かやりたいことはありますか。

ライフスタイル系のチャネルも充実させていきたいと思っています。視聴者に女性が多いのですが、みんな「もっと私生活のことを観たい」「ルームツアーをして!」と言われます。

私はDIYが好きなので、英語の方はどちらかというとビジネス的に考えて、趣味チャネルでライフスタイルの方が大きくなればいいと思います。

――吉田さんが発信したいライフスタイルとは?

YouTubeのコンテンツはまだ、20代前半向けのものが多いです。なので、大人が見るようなコンテンツがYouTubeにあってもいいと思うので、そういうのを作りたいです。

去年結婚したんですけど、私も働きながら家庭も持っているので、効率よく料理をする方法とか、自分自身学びたいことを発信したいと思います。これいいな、と思ったことをほかの女性にシェアしたいです。

うまく仕事もしつつ、家事とかいろんな家のこともやりつつ、子ども生まれたら責任も出てくるのでどう両立するのか?など。そういうのってすごく大変だから、共感できる相手もほしいと思いますし。

――ありがとうございました。

TIAで取材した女性2人の共通点

確かに、大人の女性向けのYouTubeチャネルはあまりまだ聞いたことがありません。吉田さんの新しいチャレンジに期待が高まります。

Tech in Asia Tokyo 2016にて、Wantedly社長の仲暁子さん、YouTuberの吉田さんの2人を取材して、共通していたのは、「お金は追いかけるものではなく、結果として付いてくるもの」だということ。そして、2人ともユーザーのことを第一に考えている印象も受けました。

意外だったのは、目標を質問されて2人とも「ゴールはない」と言っていたこと。遠い未来のことは分からない、変化の激しい分野でチャレンジしているお二人だからなのかもしれません。

将来が不安で前に進めないよりも、ゴールはなくとも今をがんばって生きる方が前向きでよいかもしれません。IT業界の最先端を行くお二人から、明るい希望をもらい、会場を後にしました。(Tech in Asia Tokyo 2016より、おわり)

【Tech in Asia Tokyo 2016より<前編>はこちら】
「海外でも自分の哲学貫く」Wantedly社長仲暁子さんの信念とは

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