(写真=PIXTA)

【連載】「税理士の告白」

第4話 独立後も仕事を続けるために必要なこととは?

税理士として独立した鈴木さん。しかし、開業後、ある苦悩を抱えたそうです。

2002年に結婚してから、5年後に長女を出産した税理士の鈴木まゆ子さんは、子育てをしながら勉強に励み、2009年の冬に税理士試験に見事合格しました。しかし、当時鈴木さんは次女を妊娠中。税理士登録したのは次女を出産してから2年後のことでした。合格後すぐに税理士登録しなかったのは、子育てや妊娠だけが理由ではなかったのです。

私が税理士登録したのは2012年1月。合格してすぐに税理士登録して開業する友人たちをよそに、私は大きくなり始めたお腹を撫でつつ、次女の出産準備を進めていました。

実際「なんで税理士登録しないの?」という友人にも「出産と育児があるから、仕事との両立はムリだと思うんだよね」と答えていました。けれど、本当の理由は別のところにありました。税理士としての過重な責任を負うのが怖かったのです。

実は官報合格で燃え尽きた。税理士にはなりたくなかった

税理士試験を受験し始めた当初は、もちろん税理士として一人で仕事してやると思っていました。しかし、所長から税理士の損害賠償の話や過労死の話などを聞くにつれ、税理士としての明るい未来よりも、対価と引き換えに背負う責任の重さを意識するようになりました。

そして、税理士試験もなかなか合格できない。勉強もしんどいし、精神的にもつらい。だからといって、中途半端に止めたら自分が後悔するのが分かっている。税理士として働きたいというよりも「いい加減このキツイ勉強生活を終わりにしたい」「ラクになりたい」という気持ちの方が勝るようになりました。

心身ともにつらい勉強生活を経て、やっと合格。肩の荷が降りた反面、猛烈な別の恐怖が私に襲いかかってきました。「税理士登録、しないの?」「税理士として働けるのにもったいない」と言われるのではないか。

しかし、たまたま妊娠5カ月だった私は、都合のいい口実に助けられ、私は責任から逃れることができたのでした。

夫から「そろそろ税理士として仕事しないか」

その後出産し、4歳になった長女と0歳の次女のお世話に追われる日々を送りました。2人の育児は大変でしたが、それなりに穏やかな毎日を楽しんでいました。ただ、一方で、独立開業から逃げているうしろめたさが常につきまとっていたのも事実です。

そんなある日、一緒にテレビを見ていた夫がこう切り出しました。

「そろそろ税理士登録しない?オレ、もうお客さんを逃したくない」

夫はビザ専業の行政書士。仕事は基本的に単発受注で、案件が終わったらお客様との関係はなくなります。一方、税務・会計は税務顧問や決算などで継続的に仕事を受注することが多いのです。つまり、夫はビザでご縁ができたお客さまを私が税務・会計を担当することで継続的に仕事を受注したいと考えていたのです。

「『おたくでは会計やらないの?』としょっちゅうお客さんに言われる。もう、逃したくない」

ここまでせっぱつまったような雰囲気で言われたのは初めてでした。「働く能力があるのに夫に甘えてばかりで申し訳ない」という罪悪感から、税理士として独立することにしました。

受け身の起業から葛藤。そして見つけた道

税理士鈴木まゆ子 (写真=PIXTA)

2012年1月、私は税理士として独立開業しました。その直後、3人目の妊娠が発覚。夫の一言より前に3人目を妊娠していたら、また私は先延ばしにしていたかもしれません。今回は登録後の妊娠だったので、もう覚悟するしかなくなりました。

独立して間もなく、夫から次から次へと案件が紹介されました。初めてこなす仕事も多く、緊張しながら決算や税務申告をこなしていました。妊娠5カ月でも徹夜で決算書を作成し、時間をかけて全て英語で記載された決算書を作る。そしてお客様に「ありがとう」と言われることでホッと一息つく。そんな繰り返しでした。

仕事の受注に比例して、当然預金残高も増えました。私はいつしか売上や利益ばかりを追い求めるようになりました。まだ足りない、もっと、もっと……。さらに、税理士としての責任の重圧に苦しくなることが増え、次第に「辞めたい」とも思うようになりました。

なぜなら、通常の税理士業務は私が好きなことではなかったから。手慣れていた数字の管理や決算業務は私の「得意」ではあったけれど「好き」ではない。苦ではないけど、何が何でもやりたいものでもない。

どんな仕事にも必ず波があります。どんなに大変でもとにかく続けたいという思いがないと、仕事は長く続けられません。特に起業や独立は、誰かに要請されるわけでもなければ強制されるわけでもない。気持ちがくじければ、そのまま廃業や倒産につながります。どんな波があってもこの仕事は続けるエネルギーとなるのが「好き」という思いなのです。

では、私の「好き」は何だろう?損得関係なく、これまで自然と続けてこられたことは何だろう? そう自分に問いかけたとき「書くこと」というのが浮かびました。

小さい頃から私はひたすら文章を書くのが好きで、内側から沸き起こる思いを表現することで喜びを得ていました。

税務や会計、数字に関することを文章に表現にし、それを仕事にしよう。そこから私は「税理士ライター」としての新たな一歩を決意しました。

「好き」を仕事にすれば続けられる

「私、執筆中心の税理士として活動したい。決算ほど儲からないし、あなたの期待から外れてしまうのだけど……いいかな?」

決意後のある日、おそるおそる夫に切り出しました。夫は私からの売上を期待していたはず。だから反対されるものと思っていました。しかし、予想とは違う答えが夫から返ってきました。

「いいよ、好きにやりなよ。たった一回の人生、やりたいことをやらないともったいないよ」

「でも、売上にはつながらないよ。家計の足しにもならないし」

「いいよ、いいよ、俺ががんばるよ。俺が大黒柱なんだから。女性は男性ほど義務が重くない分、いろいろとチャレンジした方がいい。それが産業の新たな芽を育てることにもなるのだから」

こういった夫の応援を受け、2014年から私は税理士ライターとしての小さな一歩を踏み出しました。最初は単発の執筆案件のみでしたが、徐々に継続案件が増えていきました。最近では、ウェブ記事だけでなく「執筆が好きな税理士」に着目してくださるお客様から税務に関する会議の秘書業務や書籍の執筆をご依頼いただくようになっています。

登録当時は「辞めたい」とばかり思っていた税理士の仕事でしたが、葛藤の末、自発的に「書く」を仕事にしてからは「税理士でよかった」と感じています。税理士であることの専門的な知識を強みに、自分の「好き」を活かせるから。起業は受け身ではなく能動的に「好き」の気持ちに従ってこそ続くものだと、今の私は実感しています。

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