(写真=Thinkstock/Getty Images)

機内で仕事をしたら、テロリストと間違えられる!? 事件から見える「アメリカの闇」

ウソのようなホントの話なんです

エコノミストが機内で難しい数式の書かれた資料を読んでいたら、隣に座っていた女性に、テロリストと間違えられて通報された。というまるでコメディのようなアメリカで本当に起きたお話。

ウソみたいなお話ですが、笑ってばかりもいられません。この話の背景には、アメリカが抱える闇があったのです。記事の内容を詳しくご紹介します。

アメリカが抱える闇

アメリカのワシントンポスト紙(The Washington Post オンライン版 2016年5月7日付)に掲載されたこの記事は、無知な一般女性の

「この人、きっとテロリストに違いないわ」

という根拠のない思い込みによって、エリート男性がいとも簡単にテロの容疑者にされてしまうまでの過程を克明に描いています。結果、1時間後には目的地に着いていたはずの飛行機が、2時間経ってもまだ駐機場に待機しているという事態を招いてしまいました。

そもそも、なぜ女性は、飛行機で隣の座席に座った男性をテロリストと間違えてしまったのでしょうか。

テロリストっぽい見た目?

女性がテロリストだと思った男性は40歳。髪の毛は黒っぽいカーリーヘア、肌はオリーブ色で、エキゾチックな外国のアクセントで英語を話していました。

男性の服装は、1本3万円はする高級ブランド、ディーゼル(Diesel)のデニムに、赤のラコステ(Lacoste)のセーターという、シンプルエレガンスな格好でした。

ちなみに、隣に座った女性は30代くらい。ブロンドの髪の毛、スポーツタイプのフリップ・フロップ・サンダルを履いていて、手には赤色のトートバッグを持っていました。

テロリストっぽい不審な行動?

男性は、隣の席の女性が話しかけても、心ここにあらず、という感じに短くぶっきらぼうな返事をしただけ。そして、手元のメモ帳にひたすら不可解な走り書きをしていました。

女性は、一旦は読書に集中しようとしたようでしたが、キャビンアテンダントにメモを渡し「気分が悪くなった」と言って、飛行機を降りました。ほどなく男性も、飛行機を降り、特殊任務の捜査官らしき人物に話を聞かれる羽目になってしまいました。そして言われた一言が、

「あなたは、テロの容疑者です」

テロリストに間違えられた男性の本当の職業とは……

「テロの容疑者」と言われた男性は、笑うしかありませんでした。隣に座った女性は、彼のメモを見て、それがテロに使う暗号か何かだと勘違いしたらしいのです。自分が理解できないアラビア語か何かの謎の走り書きが、きっと、名もなき何十人もの搭乗者の命を奪ってしまう暗号に違いない。そうなる前に、私が何とかして止めなければ、と女性は思ったのでしょう。

しかし、実際そのメモは、アラビア語でもほかの言語でもなく、ただの数式。正確には「微分方程式」でした。一心不乱に微分方程式に取り組んでいた男性の職業は、世界屈指のアメリカの名門ペンシルバニア大学で経済学を教える准教授だったのです。

そして、男性は、中東出身ではなくイタリア人。英語のアクセントが外国語訛りだったのは、イタリア英語だったから。経済学の分野で受賞歴もあるイタリア出身の若きホープで、アメリカの超エリート校を出たエコノミストだったのです。

ちょうどその日は、自分が書いた共同論文について別の大学で講義を行うため飛行機に乗っていたのです。うるさい隣人が、微分方程式とアラビア語の区別もつかないのに、男性が何をしているのか勝手に詮索した結果、テロリストの容疑者に仕立てられてしまったというわけです。

アメリカ人は「外国人恐怖症」

機内2 (写真=PIXTA)

この男性は、運良くテロの容疑が晴れて、拘束もされませんでした。当局の対応も決して乱暴だったわけではないようです。ですが、この男性が、今回の経験を通して指摘するのは、アメリカ大統領選挙戦によって掻き立てられた、アメリカ人の「外国人嫌い」という風潮です。

そして、今後、少しでも見た目が異なる人々や、「異質」と思われてしまった人々への風当たりは、ますます強くなってしまうのではないか、という懸念です。

アメリカ社会における異質なものを嫌う風潮は、より広く、激しく、伝染していくという可能性も否めません。そして、他人を疑ったり、嫌ったりする現象は、むしろ「外国人恐怖症」という病的な状態に近いのかもしれません。

この記事は「今日のアメリカで外国人よりも人々を怖がらせるのは、数学にほかならない」と締めくくっていますが、筆者はこんなジョークの裏にアメリカ社会が抱える闇が透けて見えるような気がしています。

中東出身者やイスラム教徒を怖がる風潮。アメリカ人以外を異質とみなす空気。知らないものをむやみに怖がって、疎外してしまうという無数の一般の人々の安易な行動。それらに流されて社会が動いてしまうという現実があります。本当に怖いのは、数学? それとも、飛行機でたまたま隣の座席に座った知らない人?

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