イラン・シーラーズ。ステンドグラスから差し込む光が美しい『マスジェデ・ナスィーロル・モスク』。通称『ピンクモスク』(写真=2016年4月15日,筆者撮影)

映画『ペルセポリス』と自立したイラン女性

イラン旅行にでかけた筆者が現地で感じたこととは?

「次の休暇、イランへ旅行に行くんだけど、文化とか歴史とか調べるのに事前に読んでおくべき本って何かしら?」と友人2人に尋ねたところ、2人から『ペルセポリス』(原題『Persepolis』)を勧められました。

正直なところ、「ぺ、ペルセ…何?」というような、恥さらしな状態でしたが、イラン旅行を目前に控え、この作品を鑑賞した私は、旅行中ずっと、原作者であり、この映画を自ら監督したマルジャンという女性と、現地で目の当たりにするイラン女性の姿を重ね合わせ、思いを巡らせ続けることとなりました。

映画『ペルセポリス』とは?

映画『ペルセポリス』は、イランの大学をトップで卒業した女性マルジが、自立した女性になるまでの道のりを描いたものです。この作品は、フランスで映画化され、第80回アカデミー賞にノミネート、2007年カンヌ国際映画祭にも出品され、審査員賞を受賞しました。

この映画の共感ポイントは次の通りです。

共感ポイント①結局ただの亭主関白男

大学卒業後、マルジは経済誌のイラストレーターとして働き始めました。政府による言論統制が厳しくなっていた時代です。ある日、同僚の男性が書いたある風刺画が検閲に引っかかってしまいました。

マルジは同僚の男性が釈放されたとき、彼の自宅を訪ねました。そこでマルジは、同僚の妻に対するぞんざいな態度を目の当たりにします。

「お前はお客様がいらしているのが見えないのか。早くお茶を出さんか」 同僚の妻は専業主婦でした。彼は、マルジたちと、子供のことなど、他愛のない話をしている間も、妻には一言もしゃべらせませんでした。言論統制に屈せず、自由の為に戦ったヒーローだと思っていた同僚が、家庭ではただの亭主関白男だったのです。

ペルセポリス,映画 イラン・エスファハーン。『エマーム広場』にカーペットを敷いて夕涼みするイラン人女性(写真=2016年4月10日,筆者撮影)

イランだからとか、イスラム教だからとか、あまり関係ない気がします。こんな男性、あなたの周りにもいませんか? スマートな職場の同僚、先輩や上司が、恋人や妻には、「家庭に入って欲しい」と言ったり、男性と肩を並べて働くことを拒んだり。

自分の娘にはよい大学に進学して立派な職業に就くことを自然に願い、応援することができるのに、自分の職場や社会で活躍する女性を対等に扱おうとしない男性もいますよね。

共感ポイント②手痛い挫折を何度も経験

主人公マルジは、自立したキャリア女性になるまで、かなり手痛い挫折を何度も経験しています。戦争の激化に伴い、10代で親元を離れ、単身ウィーンに留学した時には、のん気に暮らすクラスメートと馴染めず、やっと心を許した恋人には裏切られ、ボロボロになって、傷心のままイランに帰国します。

イランに帰国後、付き合い始めた彼とは、結婚前の恋愛を咎める世間の目から逃れるように21歳で結婚。結婚式の日、マルジは母親に、「あなたには、『自立した、教養ある人間になってほしい』と、ずっと願っていたのに、21歳で結婚するなんて」と、泣かれてしまいます。彼との愛も、結婚後すぐに冷めてしまいました。

共感ポイント③努力できる

マルジは両親から将来「自立した女性になってほしい」との期待を持って育てられます。そして、マルジは両親の願い通り、自分の意見をしっかりと言える女性に成長しました。

ところがマルジの大学時代、両親が自宅に衛星放送受信用のアンテナを設置したときのこと。マルジは大学にも行かず、ソファーに寝転んで、一日中テレビばかり見て過ごすようになりました。

父親が叱っても、「私は、もう結婚もしているし、22歳の大人なんだから」と取り合いません。そんなマルジを父親は「誰だって結婚はできるし、22歳にもなれる。だけど、努力なしに教養を身につけることはできないんだよ」と諭します。マルジが再び自分を取り戻し、勉学に励むようになるまでには、多少の時間を要しました。

映画『ペルセポリス』との出会い

ペルセポリス,映画 イラン・ペルセポリス。ペルセポリス宮殿『百柱の間』(写真=2016年4月15日,筆者撮影)

ペルセポリスとは、イラン人が誇るペルシャ時代の古都、現在もあるイラン中西部の都市の名前です。ちなみに原作はイラン出身パリ在住の女性マルジャン・サトラピ(Marjane Satrapi)のコミック本で、映画の主人公マルジは、マルジャン監督自身の若き日の自分だそうです。

この作品を勧めてくれた友人の一人は、スイス人。フランス語を話す彼にとって、「イラン」と言えば、まず、フランス語原作のこの作品が頭に浮かぶようです。もう一人は、日本人。今はニューヨーク大学に通う娘さんが、インターナショナル・スクールの高校生だった時、現代史の授業の必読書だったそうです。

キャリア女性がイラン女性に共感する理由

キャリアを積んで、責任ある仕事を任されるようになったり、社会で認められるようになったとしても、女性の一生はきっとそれだけでは終わらないでしょう。

結婚や出産で、仕事をセーブせざるを得なくなるかもしれませんし、恋人や夫の海外転勤の時には、休職や退職さえ考えるでしょう。そんな、社会情勢の変化や、自分を取り巻く環境の変化によって、今までは、自分の努力で掴みとってきた仕事や夢が、「もうどうにもならない」と感じる時があるかもしれません。

ペルセポリス,映画 イラン・シーラーズ。ステンドグラスから差し込む光が美しい『マスジェデ・ナスィーロル・モスク』。通称『ピンクモスク』(写真=2016年4月15日,筆者撮影)

そんな時こそ、自分を見失わないで、環境の変化に対応する柔軟さが、女性には必要です。マルジャン監督の数々の挫折は、そんな私たちの、よきお手本になるでしょう。私が旅行中に出会ったイランの女性たちも、社会や環境の制約に、ただ埋もれてしまっているようには見えませんでした。

『ペルセポリス』で、マルジがこんなことを言っています。 「たとえ、頭から足まで(黒い布で)覆われていたとしても、中身がどうなっているのかは、分かる。髪型、体型、その女性の考え方や政治的意見までも」

認められることだけが重要なのではなく、大事なのはその人の中身なのだと、あらためて思いました。

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